「頑張れ」という言葉が重くてしんどい時には? 「弱さ」を見つめ直してわかったこと

暮らし

公開日:2020/9/2

『弱さのちから』(若松英輔/亜紀書房)

 私たちがこれほどまでに「弱さ」と向き合った年は珍しいのではないだろうか。
 
 新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまな立場、役割、状況の人がそれぞれの「弱さ」に目を向けさせられた。人との接触は極度に減らされ、感染リスクに不安を抱え、そしてある人は仕事を失ったり、この先失うのではないかという不安に苛まれたりしたことだろう。
 
 そんな今こそ読みたいのが、『弱さのちから』(若松英輔/亜紀書房)だ。私たちは、“誰もが急に「弱い」立場になるという現実”に直面した。本書では、批評家である著者の若松さんが、感染症や災害といった人間の力を大きく超えた危機に立ち向かうための心構えについて、やさしく語る。

「頑張れ」という言葉がしんどい時もある…

 例えば、「頑張れ」という声がけについて若松さんは取り上げる。ドイツのメルケル首相が今年3月に行った演説のなかで、“口にしなかった”のが「頑張れ」という言葉だったという。感染症が猛威をふるい始めた時期に、メルケル首相は「皆さん、頑張りましょう」ではなく、「私たちの誰もが、このような状況では、今後どうなるのかと疑問や不安で頭がいっぱいになります」と、はじめに「弱さ」に寄り添った。

 つまり、自分自身も含めた私たちの「弱さ」を明らかにすることで、人々と深いところでつながることができるということを、メルケル首相は経験的に知っていたのではと若松さんは考察する。

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 危機的な状況に陥った時、私たちは「強くあらねばならない」と思いたくもなる。「頑張ろう」と思い、そして他者にもそれを求めてしまいがちだ。しかし、若松さんは反対に「弱さ」の持つちからを説く。

“私たちは、強くあるために勇気を振り絞ろうとする。だが、残念ながら、そうやって強がろうとしても勇気は湧いてこない。それは自分の「弱さ」と向き合いつつ、大切な人のことを思ったとき、どこからか湧出してくる。”

 本書は、コロナ禍に若松さんが書いてきた文章を集めて構成したものだ。先が見えない只中で書かれた文章を読み進めていると、“STAY HOME”していた時期の苦しさやつらさ、そして「弱さ」がいろいろ思い出されてくる。それでいて、読み進めていくうちに気持ちが穏やかになり、スピードダウンしてじっくりと読みたくなるような深みがある。きっと本書は、あなたの「弱さ」にも寄り添ってくれるはずだ。

“わたしは自分の弱さを誇ることにします、
……わたしは、弱っている時こそ、強いからです。”

 こうやって始まる本書を、あなたの支えとして手元に1冊携えてみてはどうだろうか。

文=えんどーこーた