第144回芥川賞受賞作、7月14日映画公開! 人間の負の強さを感じる私小説

小説・エッセイ

更新日:2012/6/27

苦役列車

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:西村賢太 価格:1,037円

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2011年上半期(第144回)芥川賞受賞作品。
主人公の北町貫多(きたまちかんた)は、中学を卒業してから進学も就職もせず、日雇いの収入でなんとか暮らしている19歳のフリーターです。小学5年生の時に父親が強姦事件で捕まってから、自分はまともな人生を生きれないと諦め、人と関わることもせず、無気力で堕落した生活を送ります。

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そんなわけで友達も彼女もおらず、お酒とたまに行く風俗を慰めに生きる毎日。そんな時、いつもの日雇いの仕事で「日下部正二」という専門学校に通う同い年の青年と出会います。無愛想で劣等感の強い貫多ですが、日下部とは珍しく意気投合し、今までまったく変わりばえのなかった生活に変化が…。

この小説は、作者・西村賢太さんの実体験を基にした私小説で、「北町貫多」という少年を通して、西村さんがどう生き、何を考えてきたかがリアルに書かれています。それも人が本来隠したくなる、嫌らしい負の感情が赤裸々に! どうしたらここまで自分のこと悪く書けるんだろうと驚くぐらい、文章の書き方も生々しくて…。

だから正直言うと、私は貫多という少年を好きになれませんでした。自分はまともに働きもしないくせに母親を脅してお金を貰ったり、家賃を払わなければいけないのに風俗やお酒にそのお金を使って家から追い出されたり、口も悪く人を罵ってケンカになったり…。せっかく出来た友達・日下部にも、友達付き合いするうえで絶対に言っちゃいけないことや、やってはいけないことをやってしまって、だんだん微妙な空気になっていきます。呆れるくらいダメな人間で、うんざりするほど劣等感の塊で、本当に不器用な人間が貫多なんです。

貫多の抱く劣等感とか自分を卑下する気持ちとか、どこか自分にも通じる部分があると思います。むしろそれがわかるから嫌悪感も感じるし、逆にそんな貫多が今後どうなっていくのか気になって、読み始めたら止まりませんでした。悪い言い方だけど、人生の底辺をいく貫多が頑張れたら、自分も頑張れるような気がして…(笑)

明るい話とか、輝く未来、希望…、そんな話はひとつもありません。人間の嫌らしさ、傲慢さ、妬ましさなど、負の感情がたっぷりの小説です。ラストもなんだか虚しくなります。結局人生ってこんなもんだよなぁ~って。でも貫多にどこかしら共感できる部分があれば、心にガツンとくる、すごくいい小説だと思います!!

7月には映画も公開されるそうです。公開前に『苦役列車』、一度読んでみてはいかがでしょうか?


「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」は、40代になった貫多の話が書かれています

古風な文章の書き方ですが、シンプルな表現の仕方をしているので、サクサクと読めます

日下部との出会いが、貫多に何をもたらすのでしょうか…?
※画面写真は紀伊國屋書店BookWebのものです