セガ、キングジム、タニタ、東急ハンズ……。「ファンに愛される極意」を企業アカウントから学ぶ

ビジネス

公開日:2020/9/6

自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方
『自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方』(日経トレンディ、日経クロストレンド/日経BP)

 毎日のようにバズツイートが生まれ、それがテレビやウェブメディアのニュースになることも多いTwitter。そこで大きな存在感を放っているのが、ゆるくて面白い投稿を連発する企業アカウントだ。以下のセガの公式アカウントのツイートはその一例だ。

『天空の城ラピュタ』放映時におなじみの「バルス祭り」。セガの公式アカウントは「目が、目がぁ~!」のセリフに引っ掛けたギャグを投稿して大ウケを勝ち取った。

『自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方』(日経トレンディ、日経クロストレンド/日経BP)では、そうした企業アカウントの象徴といえるセガ、キングジム、タカラトミー、タニタ、東急ハンズ、井村屋の6社の「中の人」に直撃インタビュー。具体的な事例を掘り下げながら、ファンに愛される極意を聞いた1冊だ。なお近年は、こうした公式アカウント同士のTwitter上での交流も増加している。

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上は2017年のエイプリルフールに、シャープとタニタが映画『君の名は。』を元ネタに“入れ替わった”ときの投稿。

 6人の中の人へのインタビューで、全員に共通していると感じたのが、「Twitterでは宣伝をただ頑張るだけではダメで、日常のやりとりこそが重要である」という意識だ。

 企業のPRを目的とする公式アカウントは、ともすると「新商品の告知」「店舗への集客を呼びかける投稿」などに偏りがちだ。しかし、本書に登場する公式アカウントは違う。「おしゃべり8割、情報2割」の東急ハンズ、「雑談7割、商品情報3割」のキングジムのように、むしろ雑談の比率のほうが高いケースもあるのだ。

キングジムのアカウントでは絵文字、顔文字、アスキーアートなどを使った投稿が定番。製品の宣伝とは関係ないが、こうしたツイートもフォロワーを楽しませている。

 そして時には、宣伝と真逆ともいえるツイートが大反響を呼ぶこともある。その一例が、東急ハンズのアカウントが大雪警報の発令時につぶやいた、「東急ハンズに来ている場合ではありません」という投稿だ。

この投稿はネットニュースにも取り上げられ、多くの称賛を浴びた。

 東急ハンズのアカウントの中の人は、他店・他社の公式アカウントが「足元にお気をつけてお越しください」的なツイートをしているのを見て、このツイートを思いついたとのこと。そのときはフォロワーの立場で、「こんなに雪が積もっていて、帰りの電車が動かなくなるかもしれないのに、東急ハンズに行かないよなあ」と考えていたそうだ。

 本当なら「商品を買って買って!」「お店に来て来て!」と呼びかけるはずの企業公式アカウントが、自社の利益よりも、フォロワーの安全のことを考えて行動してくれている。多くの人がそう感じたからこそ、このツイートは大反響を呼んだのだろう。

「自分よりも人のため、社会のために活動することで、人に喜ばれ、結果としてそれが利益を生んでいる」という状態は、営利を目的とする企業にとって一つの理想だろう。そして企業の公式アカウントに限らず、「自分よりも相手のことを大事にできる人」「人を楽しませることが好きな人」というのは、やはり人望が厚かったりする。

 本書は公式SNSアカウントの運用法に限らず、「企業活動とは何のために行うべきなのか」「人望が厚い人はどんな行動原理で動いているのか」といったことも教えてくれる1冊だ。

文=古澤誠一郎