大人の恋愛って本当に面倒……。見栄を張ってしまいがちな大人の恋愛の正解はどこに?

マンガ

公開日:2020/9/10

ヒトよヒトよに人見頃。
『ヒトよヒトよに人見頃。』(桧村タキ/祥伝社)

 人は歳を重ねるたびに見栄を張りやすくなる。こと恋愛においては、好きな人の前で恥をかきたくない、弱さや甘さを見せたくないあまり、“かっこよくて強い人間”を演じてしまいがちだ。ただそれはかなり面倒で疲れる、そんな恋愛を望んでいる人などいないだろう。

『ヒトよヒトよに人見頃。』(桧村タキ/祥伝社)で描かれるのは、大人同士だからこそ起こりがちな、とにかく不器用な恋愛模様だ。

 本書は、松野ふみこを中心に、同期の小田かのこ、男上司の加藤、同じマンションに住む八木、マンションの隣の美容室で働く戸村とミヤの6人それぞれの恋模様を順に追っていくオムニバス作品だ。ふみこは八木に、小田は加藤に、加藤はふみこに、ミヤは戸村にそれぞれ恋心を抱くのだが、どれもこれも一筋縄ではいかない……。

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 中でも、ふみこはかなりの恋愛不器用だ。本来ズボラな性格のはずなのだが、そんな自分を家の外で見せようとしない。密かに想いを寄せる八木にもバリバリのキャリアウーマンな自分を演じることで、ズボラで弱い自分を隠してきた。

 しかしある日、ふみこは野良猫を飼い始めたことがきっかけで、八木にズボラな一面を見られてしまう。彼には「今の松野さんの方が好き」と言ってもらえるものの、ふみこの見栄っ張りで素直になれない性格が彼との恋の進展をことごとく邪魔する。

 現に作中で、ふみこは八木から何度も想いを伝えられるが、過剰に否定し続けてしまう。距離が縮まることで“ズボラで弱い自分”を八木に見られて呆れられるのが怖いのだ。普段はキャリアウーマンでカッコいい自分を見せているだけに、なおさらである。

 加藤、小田、ミヤの恋模様も、なかなかもどかしい。

 加藤の恋愛観を一言で表すと、「振り向かせようと必死になりすぎて空回りするタイプ」だ。素直に気持ちを伝えれば良いだけなのに、加藤は何かにつけてふみこの気を引き、振り向かせようとしてしまう。一見攻めた恋愛のようだが、実は相手が振り向いてくれるまで待つ、ただの受け身の恋愛でしかないのだ。小田も同じである。加藤の恋愛を静かに見守っているように見えるが、彼女も加藤に素直な気持ちをぶつけない。それどころか、加藤の理想に近づくための自分磨きにばかり勤しんでいる。ミヤに至っては、戸村が理想とする女性に近づけないとわかるや否や、想いも伝えずにアシスタントを辞めると告げてしまう。考え方が素直でないうえに行動が極端すぎるのだ。

 総じて、ふみこ達が綴る恋愛模様は、とにかく面倒くさい。モヤモヤする読者も少なくないだろう。ただ、そんな僕達のモヤモヤした気持ちを的確に代弁してくれる存在がいる。作中に登場する動物達だ。本書には、彼ら動物達がふみこ達人間の恋愛にダメ出しつつ、さりげなく助太刀するシーンが随所にちりばめられている。ぜひそこにも注目していただきたい。また、彼ら動物達の堂々としたスキンシップや愛情表現は、恋愛不器用な人間達に素直になるためのヒントを与えてくれるはずだ。

 恋愛には模範解答も正解もない。だからこそ見栄を張らず素直な気持ちでいることが大事なのだろう。恋愛不器用な人はぜひ読んでみてほしい。

文=トヤカン