大反響を呼んだ『岡崎に捧ぐ』の山本さほ最新作! 新天地での孤独を描いた衝撃のコミックエッセイ

マンガ

公開日:2020/9/10

この町ではひとり
『この町ではひとり』(山本さほ/小学館)

 周囲にいる人全員から無視されているような孤独。それを感じたことがある人は、どのくらいいるのだろうか。

 新しい環境で生活を始めたとき、「馴染まなければ」と焦って逆に周囲から浮いてしまうのはよくあることだ。周りから「浮いている人」と一度思われると、時が経つにつれて信頼関係を築くのがどんどんと難しくなる。

『この町ではひとり』(山本さほ/小学館)を読んだとき、ここに昔の自分がいる、と思った。受験して私立の中学校に進学した私は、人間関係を作ろうとして失敗し、孤立したのだ。高校生の頃も、大学生になってアルバイトをしたときもコミュニティ内の人間関係に苦しんだ。心に封じ込めていた思いが、本作を読むとよみがえる。それはきっと私だけではない。

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 これは実話である。人間関係が理由で挫折したことのあるすべての人にとって、著者は自分の分身のように見えるはずだ。

 美大受験に失敗し実家でのんびりと生活していた著者山本さほさんが、地元の神奈川から離れ関西の新しい町で新生活を始めることを決意するところから、この漫画はスタートする。

 ポジティブで子どもの頃は友だちを作るのに苦労したことがなかった山本さんは、新しい町で驚くような出来事を目にしても、最初は「面白い」と受け止める。

 ところがアルバイトを始めたことをきっかけに、彼女の生活には暗雲が立ち込めていく。

 明るく挨拶しても無視され、よくわからないことで怒鳴られ、既に人間関係のできあがっているアルバイト仲間は山本さんと仲良くしようとしない。やさしくしてくれる人のいない毎日に加え、フリーターであることの不安が、山本さんに追い打ちをかける。

 町の人たちからの言葉の暴力や排他的な態度も、山本さんにとってじょじょに耐えがたいものになっていく。

“なんで…
こんなひどいことしてくるんだろう…
私がよそ者だから?
何もしてないのに…
私はただ…
友達が欲しかっただけなのに…”

 自信を失うと、人は暗い表情になり他者と接するのが怖くなる。その様子が「あの人、暗いね」と誤解を生み、悪循環が始まる。孤独感を深める山本さんの精神は限界に近かっただろう。

 本作を他の登場人物の視点に変えると、ある町での青春物語になるのかも知れない。ただコミュニティや町という小さな社会に馴染めるか馴染めないかだけで、彼らはここまで山本さんを追いつめる必要があったのだろうか。

 社会やコミュニティが閉鎖的であればあるほど、「よそ者」扱いされている人は、誰も知らないところで苦しんでいる。本作を読むと、今まさに疎外感を抱いている人は「私だけじゃない」と思えるし、それ以外の人は、どうすれば誰かが孤立しない社会を作れるのか考えるきっかけを得られるはずだ。

文=若林理央