「インタビューはプロレス」――吉田豪が理想とする“聞き出す力”とは?

文芸・カルチャー

更新日:2020/9/8

聞き出す力
『続 聞き出す力』(吉田豪/日本文芸社)

 ずっとインタビューをしてみたいと思っている人がいる。プロインタビュアーの吉田豪だ。しかし、吉田豪にインタビューをするというのは恐ろしい。例えばこちらが「さすがですね!」などと言おうものなら、「そんな当たり障りのない褒め言葉を言われても、心を開けないですよ」と指摘されそうだからだ。そんなこんなでこの記事も、インタビューではなくレビューという形式にした。

 阿川佐和子著『聞く力』(文藝春秋)に便乗したという、『聞き出す力』(吉田豪/日本文芸社)。仕事でインタビューをする記者やライターの教則本になっただけでなく、著名人のゴシップネタが満載で爆発的ヒットとなった。ここでご紹介したいのは、その続編『続 聞き出す力』(同上)。相変わらず、抱腹絶倒の面白さだ。

 さて、どうやってこの記事を書こう。編集部からは、「なるべく一般の人が使えるネタを書いてください」と言われている。しかし本書を読んで、思った。(それじゃあ、吉田豪の本を読んだ意味がない――)。ボツになっては元も子もないのだが、ギリギリのところを攻めるのが吉田豪流。だからこの記事では、「一般の人が使えるネタ」でもなく、「芸能人のゴシップネタ」でもなく、本書の核心となる「インタビューはプロレス」という点に絞ることにした。

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 吉田豪は言う。「プロレスなんて全部決め事だと思っているかもしれないが、むしろもっともっとアドリブの要素が強くて、(中略)相手がやりたいことに付き合う能力も必要だし、相手に舐められないためのガチの強さも必要だし、その上で『またこの試合が見たい』と観客に思わせたらこっちの勝ち」――。同様に、いいインタビューとは、緊張感のある攻撃を仕掛けたり、相手のキツい技を受けきったりしつつも、最終的にはどちらにもプラスになるようないい着地点に持っていくものだという。

 わたしはプロレスラーにインタビューをする機会が多いのだが、さすがプロレスラーはインタビューでも自然とプロレスをやってのける。まさに吉田豪の言う“理想のインタビュー”だ。攻めた質問を受けきったかと思えば、とんでもない逆質問を仕掛けてきたりする。負けじと攻めると、今度は巧妙にはぐらかす。結果、インタビューは非情にスリリングなものになり、インタビュー下手なわたしが書いた原稿でも「いい記事」と言ってもらえることが多いのだ(ちなみにドサクサに宣伝すると、『最強レスラー数珠つなぎ』というプロレスラーのインタビュー集を上梓したので、ぜひ買ってください)。

 いつかスキルが上がったら、吉田豪にインタビューを申し込もうと思う。そのために、本書を繰り返し熟読するつもりだ。「本人よりも本人に詳しい」と称されるほどの徹底した事前調査をする彼は、きっとわたしのプロレス好きを調べて、プロレス的な逆インタビューを仕掛けてくるだろう。そのときは、技を受けて受けて、最後に仕留める王道プロレスを見せようじゃあないか。

 余談だが、吉田豪の趣味は「エゴサーチ」。この記事もきっと本人に発見され、世間に晒されるのだろう。やはり吉田豪は恐ろしい。

文=尾崎ムギ子