半沢直樹の出身行「産業中央銀行」が舞台! 逆境に立ち向かうふたりの“アキラ”の半生…池井戸潤が描く熱き青春ストーリー!

文芸・カルチャー

更新日:2020/9/14

アキラとあきら
『アキラとあきら(上・下)』(池井戸潤/集英社文庫)

池井戸潤旋風”が止みそうにない。「半沢直樹」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『下町ロケット』、『七つの会議』、『空飛ぶタイヤ』、『陸王』、『ノーサイド・ゲーム』…。池井戸潤が作る物語はどうしてこれほどまでに私たちの心を揺さぶるのだろう。それは、池井戸氏が銀行や企業という組織を描き出すだけでなく、そこで働く一個人にスポットライトを当てるからかもしれない。組織を動かすのは、ひとりひとりの人間。悪しき行いをする者がいれば、正しい行いを貫き通そうとする者もいる。その中で、正義を貫く者が、葛藤しながら、苦難を乗り越えていく。その力強い姿に私たちは感動させられるのだ。

 そんな池井戸作品の中でも、『アキラとあきら(上・下)』(集英社文庫)は、ふたりの男の半生を描き出す、ひとつの作品で何度も楽しめる物語だ。

 物語の舞台は、1970年代前半から2000年代前半の約30年間。オイルショックからバブル期、失われた10年という時代の中で成長していくふたりの姿が壮大なスケールで描き出される。青春小説のような甘酸っぱさもあれば、「半沢直樹」シリーズを読んでいるような手に汗握る展開もある。2017年にはWOWOWでドラマ化もされたが、このたび映画化も決定。映画館でみる前に、この作品を小説でもぜひとも味わってみてほしい。

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 主人公は、零細工場の経営者の息子・山崎瑛と、日本を代表する大手海運会社・東海郵船の御曹司・階堂彬。ふたりの“アキラ”はともに「社長の息子」という立場でありながらも、まったく異なる暮らしを送っていた。瑛は、幼い頃に、父の経営していた町工場が倒産し、夜逃げを経験。一方で、彬は、東海郵船を率いる父の下で恵まれた生活をしながらも、ゆくゆくは次期社長にならねばならないという宿命に嫌悪感を抱いていた。小学校の時に1度だけわずかに接したふたりは、やがて社会人となり、ともに産業中央銀行に入行することに。バブルの絶頂期やその後を経験しながら、切磋琢磨し合うふたり。だが、ある時、彬の実家に異変が起き、彬は家業を継ぐことになり…。

「乗り越えなきゃいけない宿命ってのも、あるんだよな」

 人には誰にだって、乗り越えなければならない宿命があるのかもしれない。この物語を読むと、そんなことを思わずにはいられない。瑛と彬がひたむきに自己研鑚に励んできたのは、自らの宿命を乗り越えたいという思いがあったからこそ。父の町工場の破綻を経験した瑛。幼い頃から、大企業を経営する父と、その関連会社を経営するふたりの叔父の軋轢を見続けてきた彬。ふたりがそれぞれの宿命をどう乗り越えていくかは見ものだ。

「人のために金を貸すのがバンカー」。そんな矜持を胸に、ひとつでも多くの企業を救いたいと全力を尽くす瑛と、1度はバンカーとしての道を歩みながらも、家業を継ぐことになった彬。ライバル関係だったふたりは、やがて手を取り合うことになる。そんなふたりの姿は、あまりにもまぶしい。互いの能力を評価し合っているからこその強い信頼関係は羨ましくさえある。一方で、彼らの前に立ちはだかる悪役たちはなんと憎たらしいことか。悪役たちにどう立ち向かっていくのか。瑛と彬の戦いから目が離せない。

 ビジネスパーソンであれば、仕事に全力を注ぐふたりの姿に、憧れすら抱くに違いない。そして、読み終えれば、なんだか仕事へのやる気がむくむくと湧いてくる。仕事が上手くいっている人も、何だか上手くいかないという人も、この本は、ビジネスパーソンにとって読むビタミン剤。仕事に邁進し続けるすべてのビジネスパーソンにぜひとも読んでほしい感動巨編だ。

文=アサトーミナミ