令嬢なのに男同然に育てられ、王子と友情をはぐくんでいたはずが、急に婚約者として溺愛されて……⁉

マンガ

公開日:2020/9/9

姫君は騎士団長
『姫君は騎士団長』(屋丸やす子/白泉社)

 男女の友情は成立するか? というのは永遠の問いかけだけど、そこにはどこか「友情と恋愛は別」という意識が含まれている気がする。けれど、恋愛関係になったとして、ベースに敷かれた友情が消滅するわけではないし、恋焦がれる感情がなくても「何よりも大事な友達で、誰と一緒にいるより心地がいいから、永遠に関係を維持するために結婚した」という人もいるだろう。マンガ『姫君は騎士団長』(屋丸やす子/白泉社)を読んでいてあたたかい気持ちになるのは、友情と恋愛を区別しない信頼関係を描いているからだ。

 主人公のクリスティーナは、由緒正しい騎士の家に生まれ、後継ぎもいないために、侯爵令嬢でありながら男同様に育てられた。幼いころ、王子レオナードとかわした約束を果たすため、近衛騎士団長へとのぼりつめたという、心身ともに屈強な女性だ。レオは、王位継承権第1位であるものの、母親は身分の低い妾で、義理の母たる正妃に疎まれ命も狙われている。幼なじみで、親友で、主君でもある彼を守るのがクリスの生きがいで、“男同士”の友情をはぐくんでいると疑わない。けれどレオはクリスのことがずっと好きで、縁談が舞い込んだのを口実に、婚約者のフリをしてくれるよう頼むのだが……。

 というあらすじだけ聞けば、急に縮まった距離や、女性扱いされることへの戸惑いから、クリスも意識しはじめ、本当の恋人同士になっていく展開だと誰もが思うだろう。が、クリスがびっくりするほど鈍感で、恋愛方面の情緒が育っておらず、なかなか恋に落ちないところがこの作品のおもしろいところ。女性として好きだと言われるよりも、親友として頼りにしている、誰よりも信頼していると言われるほうがうれしいクリス。どれだけ迫られても“好き”がどういうことなのかいまいちピンとこないまま、触れられるのはいやではないし、何より誰よりも近くで彼を守り続けたいという想いが、2人の関係をよりいっそう特別なものにしていく。

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 いちおう、レオのアプローチにどぎまぎはしているようなので、2巻以降は恋にめざめてデレるクリスが見られるのかもしれないが、根っこに、人としての信頼と尊敬が流れていることには変わりない。愛し愛され、甘いひとときを紡ぐ関係もいいけれど、何があっても揺るがない2人の友情はとても理想的だなあ、と思う。

 ちなみに収録されている短編「魔王様は禁断の恋がしたい」を読んでも、著者が友情を大事にしていることがうかがえる。タイトルどおり、禁断の恋に憧れ、恋愛小説を読みふけっている魔王が、人質となった人間の王女を前に、「これはフラグ⁉」と妄想を爆発させ、空回りする姿もかわいいのだけど、迫る前にまず彼女に「友達になってほしい」と手をさしのべるところが、とてもいい。一足飛びに恋にならなくとも、肩書はどうあれまず相手のことを「好き」になるのが人間関係の基本だよなあ、なんてことをしみじみ感じいってしまう作品である。編集部によると、続きの連載が近日スタートするとのこと。楽しみに待ちたい!

文=立花もも