「自由への逃走」の気配が横溢する放浪の旅行記

小説・エッセイ

更新日:2012/6/28

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

ハード : 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:沢木耕太郎 価格:464円

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私の大好きなロックバンド、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイヴァル)のナンバーに、「ミッドナイト・スペシャル」というのがある。

刑務所に収監された囚人たちの間に、鉄格子の窓からまぶしく差し込む車のライトに照らされると、いいことがある、つまり釈放または脱獄が成功するという噂があるのだ。「レット・ミッドナイト・スペシャル」と繰り返し歌う声は、少ししゃがれてノスタルジーさえ漂うのである。

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沢木耕太郞の「深夜特急 第一巻」のエピグラフに、「深夜特急」というタイトルの説明として、「ミッドナイト・エクスプレスとは、トルコの刑務所に入れられた外国人受刑者たちの間の隠語である。脱獄することを、ミッドナイト・エクスプレスに乗る、といったのだ」とあったので、一度に気に入ってしまった。

この本は、アパート中の現金をかき集めて海外へ旅に出た沢木が、インドでだらしなくすごすこと半年、ある朝「こうはしていられない」と思い立ち、路線バスを乗り継いでインドからロンドンへ行こうとする六巻の旅行記である。

出だしのインドの安宿における怠惰な日々の「無力な安寧」から、一躍、困難な旅に出発する決意の果敢さの対比は、それだけで読者を強引にその世界に引き込んでしまうだろう。だがそのあとの、香港でのひたすらな喧噪の日々と、マカオでの賭博まみれの無為の日々に出くわす時、読者は誰でも「やっぱこいつって、ダメ・ピープルなんじゃねえ」という思いにとらわれるかも知れない。

しかし、そのあてどもない彷徨、無目的な蕩尽、あてどもない停滞が、実は本書の魅力なのだ。それは一種の、「自由への逃走」なのだから。

放浪にはロマンがある。いやロマンがあった時代の息吹が、この本にはありありと書きとどめられているといったほうがいい。社会のくびきからはずれて、しかし「目的」という不自由からも解放され、なににも縛られずに浮き上がったような毎日を、あしたどっちへ行くかも決めぬままほっつき歩く手放しの自由。

「深夜特急」には心をざわめかせる血の流れがある。


冒頭のエピグラフ

印象的な書き出し

退廃的なフランス人を見て旅立ちを決意する

香港での食の旅

マカオでの思いがけぬ賭博まみれ
※画面写真は紀伊國屋書店BookWebのものです