彼女は傾国の悪女か、それとも唯一無二の女帝となるか――残酷な運命に挑むヒロインの快進撃から目が離せない!

文芸・カルチャー

更新日:2020/9/21

※「第5回 レビュアー大賞」対象作品

威風堂々惡女
『威風堂々惡女(集英社オレンジ文庫)』(白洲梓/集英社)

 歴史上に悪女と呼ばれる女性は数多いる。則天武后や西太后、カトリーヌ・ド・メディシスなど、権力の座についている女性たちの中には、常人の想像を絶するほどの残虐さを発揮する者がいる。悪女とは歴史という名の舞台におけるトリックスターであり、良くも悪くも人の心に強烈な印象を刻む。

 本作『威風堂々惡女(集英社オレンジ文庫)』(白洲梓/集英社)の主人公、雪媛もまた悪女だ。

advertisement

 父と子の2帝に亘って寵愛を受けながらも謀反を企てて誅殺された、掛け値なしの“悪女”である。そんな人物に生まれ変わってしまった少女が、知略を尽くして生き抜いていく姿を描く骨太の歴史改変ファンタジーだ。

 古代中国を思わせる架空の国、瑞燕国。最底辺の奴婢として過酷な日々を送る尹族の少女、玉瑛は、民族弾圧の末に非業の死を遂げる。しかし、なんと歴史をさかのぼり、皇帝に嫁ぐ直前の尹国の姫に――雪媛に転生してしまう。

 自分たち尹族が迫害を受ける破目になったのは、同じく尹族出身の雪媛が反逆を起こしたから。もし雪媛の謀反が成功していたら、あんな悲惨な未来にはなっていなかったはず…。その無念を胸に抱えて雪媛として生きることになってしまった玉瑛は、尹族の、そして雪媛自身を待ち受ける運命を回避するため歴史を変えようとする。

 瑞燕国の歴史に精通している知識を活かし、雪媛(玉瑛)はさまざまな天変地異を予言。神の声を聞く「神女」として民衆から支持され、朝廷にとっても無視できない存在となっていく。年老いた皇帝にはどの妃よりも愛されて、しかもその息子で皇太子の碧成からも想いを寄せられる。

 そんな雪媛の護衛役に指名されたのが、武の名門一家に生まれた若き武人、青嘉だ。「神女」と名高い雪媛にどこか不穏なものを感じ、献身的に仕えながらも不信感が拭えない。実は青嘉は、玉瑛の生きていた世界では大将軍として名を馳せ、しかも尹族討伐の責任者として玉瑛をその手にかけていたのだった。

 つまり彼女にとって青嘉は、部下であるのと同時に自分の命を奪った相手。その事実を身をもって知った青嘉は、雪媛の秘密と野望を受け入れる。瑞燕国を手に入れるという目的のもと、悪女の道を突き進む主を全力で守っていこうと心に誓う。

 雪媛の快進撃は、読んでいて実に痛快だ。

 皇帝となった碧成の後宮に入り、皇后と寵妃の2人を同時に追い落とすことに成功。本来の世界では敵であったはずの者を自らの陣営に取り込み、着々と王位簒奪の準備を整える。それと同時に歴史は少しずつ変わってゆく。玉瑛が知っていた史実とは異なる事象が起きだして、「神女」としての力に次第にほころびが生じてくる。

 最新第4巻では、遂に皇后に立后した雪媛。しかし、これまで彼女にさんざん煮え湯を飲まされてきた者たちが、雪媛への本格的な反撃をいよいよ開始せんとする。

 歴史という残酷な舞台では、戦いに勝った側が正義となり、負けた側が悪となる。はたして雪媛は傾国の悪女として歴史に名を刻むのか、それとも唯一無二の女帝として語り継がれる存在となるか。この希代のヒロインから、まったくもって目が離せない。

文=皆川ちか

第5回 レビュアー大賞

■「第5回 レビュアー大賞」特設ページ https://bookmeter.com/reviewer_awards/2020