80年代に巻き起こった安永ギャグ旋風が、令和の時代にも吹き荒れる! 『下のほうの兄さん』

マンガ

公開日:2020/9/15

下のほうの兄さん
『下のほうの兄さん』(安永航一郎/小学館)

 1980年代、『少年サンデー』には才能ある漫画家が綺羅星のごとく集結していた。『うる星やつら』の高橋留美子氏や『タッチ』のあだち充氏、『究極超人あ~る』のゆうきまさみ氏など、名前を挙げればキリがない。そんな中、ひときわ異彩を放つギャグ漫画家が存在した。それが安永航一郎氏である。氏の描いた『県立地球防衛軍』などのギャグ漫画は、シモネタが多いながらも濃い絵柄と強引な勢いのギャグが相まって、ある意味「オンリーワン」な存在といえた。そして、そんな安永氏の最新作となるのが『下のほうの兄さん』(安永航一郎/小学館)だ。

 物語の概要は、こうである。いたって普通の女子高生“根持はしけ”こと「ねもちん」の友人である百年橋千景は、高校一年の一学期までは、確かに「女子」だった。しかし二学期、水泳の授業時にねもちんが見たものは、千景の股間に盛り上がるナゾの物体。なんと彼女の股間には、家の跡取りだった兄の「イチモツ」が生えていたのだ! 百年橋家は現在でこそ没落してしまったが長い歴史を持つ名家であり、千景の兄・義靭が跡継ぎを残さないまま亡くなったので、専門医の手によって千景の下半身に兄のイチモツが移植されてしまったのである。専門医、スゲェ! そして千景のほうも下半身に「兄さん」がいることを普通に受け入れており、混乱するのはねもちんのみだった。とりあえず誰かと子作りして男子が生まれれば元に戻れるということだが、果たしてねもちんの貞操は守られるのか…?

 スデに設定だけでも面白いが、ただねもちんが千景に貞操を狙われるだけのお話では、もちろんない。実は百年橋家は没落したとはいえ名家であるがゆえ、跡取りには常に暗殺の危険が付きまとっていた。そのため跡取りを護るために「手籠め」という護衛が存在するのだ。この場合の「手籠め」とは、有力者との間に性的な結びつきを持つことで、相手を護るための力を得た人間のことだそうな。しかし千景には手籠めがいないため、他家の手籠めである東浜が千景の護衛を務めている。自前の手籠めが欲しいと考える千景はねもちんを襲おうとするが、手籠めにしてしまうと跡取りを生む資格がなくなってしまうのが問題。結局、千景を暗殺しに来た瀧半太郎(男子)を手籠めにすることで解決してしまうのだった。

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 いろいろ楽しげな設定はあるけれど、物語は千景とねもちんのハタから見ると百合っぽい展開がメインとなる。まあ一般的な百合系に見られる耽美な世界とはほど遠いワケですが…。しかし最後まで読んで思ったのだが、これは1巻で終わりなの? 多くのナゾやらが残っており、てっきり続刊なのかと思ってしまった。久々に読んだ安永作品は、ちょいちょい入ってくるパロディネタも含めて、安心の安永漫画であった。千景とねもちんの関係や、「兄さん」がどうなったのかなど気になることは多いので、できれば続きを描いていただきたいと切に願う。

文=木谷誠