「キレイ」をあきらめはしないけど、努力もしたくない。漫画家・伊藤理佐がズルして美容を追求する日々を描く「女のはしょり道」シリーズ最新刊

マンガ

公開日:2020/9/19

それでも! 女のはしょり道
『それでも! 女のはしょり道』(伊藤理佐/講談社)

 雑誌『VOCE』の最長連載は、伊藤理佐さんのぐーたらビューティ漫画「女のはしょり道」だそうである。それを聞いたとき、ほっとした。同誌の表紙はいつも煌びやかでモデルさんも美しく、最先端の美容情報に溢れている。「美人は一日にしてならず」は真理で、美しい人は毛先からつま先まで常に気を配ってケアしているし、ストレッチも欠かさない。

 だけど筆者のように、「必要最低限でてっとりばやくきれいになりたい」「きれいになりたいなんて大それたことは言わないからせめて、マシな状態をキープしたい」と思って美容に手をのばしている人間は、伊藤さんが仕事と育児に追われながら美容に試行錯誤する等身大の日々にいたく共感するし、その試行錯誤のなかから見出した美容法が、ときにいちばん参考になったりするのだ。最長連載、ということは、そういう読者が少なくない証拠だ、と、ぐーたらな自分を肯定されたような気になったのである。

 そんな伊藤さんの連載をまとめた「女のはしょり道」シリーズ最新刊『それでも! 女のはしょり道』(講談社)がこのたび刊行された。もう、しょっぱなから、笑ってしまう。肌の常在菌を“移植”して美肌効果を得ようと、とくに肌がきれいな部分をぺたぺた触ってから顔に触れる、というエピソードなのだけど、効果を実感した伊藤さんは最終的に、7歳の娘さんのつやぴかな肌の常在菌を狙いだす。気持ちはわかるが、直尻に頬をこすりつける描写には、笑うなというほうが無茶である。

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 ほかにも、効果抜群のまつげ美容液を使ったはいいが、用法をちゃんと聞いていなくて目の周りが茶色くなってしまったとか、口角の黒ずみを治そうと四苦八苦していたら実は歯磨き粉のせいだったとか、本人にとっては笑いごとではないけど笑ってしまう、うっかりエピソードが満載だ。

 一方、タイトルに「それでも!」とあるように、加齢により一筋縄ではいかなくなってきた身体をもてあましながらも美を求め続けるその姿が、最新刊の読みどころではないかと思う。

 せっかく大幅な減量に成功したのに、痩せたとたん年相応の皺が目立つようになってしまったとか、肌触りが心地いいと感じる洋服の素材が変わってしまったとか、娘の初潮の相談に行ったはずなのに自分のほうが更年期診療が必要だったとか。変化する肉体と折り合いをつけながら、それでも諦めたくはない。かといってめちゃくちゃ頑張る気力はないから、できる限りはしょりたい。その姿勢に読者は「わかるーーー」と何度も頷き、共感し、そして救われるんじゃないだろうか。

 改めてメイクをちゃんとしようと思い立ち、コスメを探しながら〈リサ、何回同じ所耕すの? ここ何度め? ここ前も掘ったね……実がなったことある?〉と自問自答。理想どおりに髪を結えず苦しむ娘を見て〈女子は、この「思ってるのと違う」を、何度くり返したらキレイになれるんでしょうか……〉と想いを馳せながら、伊藤さんは自分もいまだくり返しの最中、納得いく自分を探す旅の途中なのだと気づく。

 私もまだまだ旅の途中だわ……という方はぜひ、本書を読んで、つかのま癒されてほしい。

文=立花もも