型破りな天才少女が将棋界に殴りこみ! 『響~小説家になる方法~』の作者が描く、闘う将棋漫画

マンガ

公開日:2020/9/22

龍と苺
『龍と苺 (1)』(柳本光晴/小学館)

 弱冠18歳にして二冠のタイトルを獲得した藤井聡太八段は、まさに漫画の世界から抜け出したような存在である。とはいえ藤井二冠が漫画のキャラクターのように尖った性格かといえばそうではなく、いたって穏やかな印象であり、これがリアルであることを実感するのだ。そういう意味では、これが「漫画」だと感じさせてくれるキャラクターが登場する将棋漫画が『龍と苺 (1)』(柳本光晴/小学館)である。

 この漫画の作者である柳本光晴氏は、先に『響~小説家になる方法~』が大ヒット。実写映画でも話題になったので、記憶にあるという人は多いだろう。『響』の主人公・鮎喰響はかなり尖った性格のキャラクターだったが、本作『龍と苺』の主人公も、それに負けず劣らずの強烈なキャラクターだ。

 主人公である藍田苺は14歳の女子中学生だが、命懸けで闘うものが見つからず鬱屈とした日々を過ごしていた。そんなある日、クラスメイトとトラブルを起こした苺は、元校長で現在はカウンセラーの宮村と面談する。対話の小道具にと、宮村は苺に将棋を指そうと提案。「命を賭ける」ことを条件に対局する苺は、初めて触れるはずの将棋で驚くべき才能を発揮する。ルールを知らずに反則を犯して負ける苺だったが、その才能と「命懸け」という言葉が本気であることを理解した宮村は、彼女を将棋の世界に誘うのだった。

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 苺は最初、将棋そのものには興味がなかった。しかし宮村に連れられ、とある将棋大会に参加した苺は真剣に将棋と向き合うことになる。将棋が面白くなったなどという理由ではない。将棋大会に参加したオジサンから、「女子であり、子供である」と軽く見られたからだ。なぜそのようなことになるかといえば、実は将棋界には女性のプロが存在しないから。自分の存在を軽んじられた苺は「売られたケンカは買う」と、本気で大会に挑むのであった。

 将棋を始めてまだ二日であるはずの苺だったが、アマチュアとはいえ腕自慢の大会参加者たちを次々と破っていく。そんな彼女の前に、強力な相手が現れる。大会の関係者で「元奨」の須藤だ。将棋界にはプロ棋士の養成機関である「奨励会」というものが存在する。だが奨励会からプロになれない者も数多く、そんな彼らを「元奨」と呼ぶのだ。須藤の上から目線が気に入らない苺は、宮村から「定跡」という定まった指し筋を短時間で学ぶ。それらの知識と天性の才覚によって、ついに苺は須藤を打ち破るのだった。

 この主人公は元々、将棋好きというわけではない。「命懸け」で挑む何かを、常に求めていただけなのだ。だが「女子だから、子供だから」と軽んじられることに対し、苺の闘志に火がついた。それこそが、彼女が将棋に取り組むようになった最大の動機なのである。ある意味、天才児が難関を次々に突破していくような物語とはアプローチが異なる。だからこそ、苺がこれからどのような型破りな行動で将棋界を騒がせてくれるのか、楽しみで仕方ない。

文=木谷誠