生きる目的は、いつか彼に“喰われる”こと⁉ 好きすぎてすれちがう2人の“かわいい”が過ぎるマンガ!『鬼の花嫁は喰べられたい』

マンガ

公開日:2020/9/25

鬼の花嫁は喰べられたい
『鬼の花嫁は喰べられたい』(サカノ景子/白泉社)

 タイトルに反して、びっくりするほど“かわいい”が過ぎるマンガだった『鬼の花嫁は喰べられたい』(サカノ景子/白泉社)。「酒呑童子」といえば、丹波の国の山奥に住んでいたと伝えられる鬼の頭領。盗賊の頭だったという言い伝えもあるが、ようするに乱暴者の悪たれである。本作ではまた違ったイメージではあるが、そんな酒呑童子に、生贄として嫁ぐことになったのが真白(ましろ)。身寄りのない、人間の少女である。

 両親を失い、家もなく、飢えて凍えていた冬の日に、酒呑童子におにぎりを分け与えられ命を救われて以来、真白の生きる目的は、いつか彼に“喰われる”ことだけだった。だから酒呑童子に嫁ぐことになっても怯えるどころか、婚礼の最中からおいしくがぶりといただかれる覚悟はできている。けれど酒呑童子は酒呑童子で、十数年ずっと陰ながら真白を見守り続けた生粋のストーカー……もとい、別の意味で真白を食べちゃいたいと思っている、かなりピュアな恋愛初心者なのだった。

 この、互いに好きすぎてすれちがう2人が、とにかくかわいいんである。初夜を迎えても手を出してくる気配のない酒呑童子に、私は喰われる価値もないんだと涙を流す真白だけれど、酒呑童子は鬼の威厳を保つため、かっこわるいと思われないために厳めしい態度を貫いているだけで、内心は怖がられていたらどうしよう、無理やり嫁がせて嫌われていないはずがない、とびくびくしている。

advertisement

 大食らいだと酒呑童子に知られたくなくて食事を我慢する真白だけれど、十数年、陰ながら真白に差し入れを続けてきた酒呑童子はそんなことはとうに承知で、食べない真白は具合が悪いのではないか、自分のもてなしが悪かったのではないかと悩むはめになる。

 ほかにも、嫁の務めをはたさねば! と真白が気合を入れるも、いつでも真白の婿になれるよう修業は万全に済ませていた酒呑童子の家事能力の高さに圧倒されたり、かわいいんだけれど少しずつズレている2人の気遣いが、非常におかしくて、にまにましてしまう。

 人間ごときが嫁になるなんて! と敵愾心をむきだしにしてくる酒呑童子の側近・夜叉もいい味を出している。めちゃくちゃ意地悪していびってくるのかと思いきや「お茶の淹れかたがなってない!」「酒呑童子の好物はこれ!」と厳しいながらにかいがいしく指導してくれる姿は、面倒見のいいツンデレ姑そのものである。本来は、真白の望んでいたとおり人間を“喰う”ことも厭わない残忍な鬼である酒呑童子が、真白の前だけではただのうぶな男に戻り、かいがいしく世話をやく。真白は命を救われた感謝を愛に育てて、酒呑童子に返す。

 今のところプラトニックを貫き、キスさえままならない2人だけれど、かわしあう愛が育てば育つほど酒呑童子の我慢もきかなくなるはずで。すれ違いつつもヒートアップしていくであろう2人の今後が、楽しみである。

文=立花もも