猟奇的な殺人事件、自首した少女が語るのは? 衝撃サスペンス『adabana―徒花―』

マンガ

公開日:2020/10/1

adabana―徒花―
『adabana―徒花―』(NON/集英社)

 鮮やかな色の表紙だ。赤と白い木、雪で覆われた地面を背景に制服を着た女の子が空を見ている。ページをめくると、表紙の少女とは異なる女の子が胸から血を流して横たわっていた。荒い息を吐きながら彼女の前に返り血のようなものを浴びてたたずんでいる女の子がいる。恐らく表紙の女の子と同一人物だ。

“何があったらあなたは人を殺しますか。”

 裏表紙をめくると、作者のNONさんが私たちにそんな問いを投げかけている。帯にも「何が起きたらあなたは人を殺しますか」と書かれていた。

『デリバリーシンデレラ』や『ハレ婚。』など……NONさんの代表作は完成度の高いストーリーはもとより、男女問わず夢中になる絶妙なエロティシズムが特徴的だ。だから、2019年に『ハレ婚。』が終了したとき、NONさんの次回作が衝撃的なサスペンスになるとは予想していなかった。その名も『adabana―徒花―』(集英社)。

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 表紙の女の子の名前はミヅキ、本作の主人公だ。彼女は教育熱心な母親から毎日のように心ない言葉を浴びせられ鬱屈した日々を送っている。ミヅキの唯一の救いは、同じ高校の友人マコである。マコは貧しい生活を送っているが、明るく活発で友だちも多い。

 序盤で血を流して死んでいたのは、このマコである。そして彼女を見下ろしていたのがミヅキだ。

 ミヅキはすぐに自分が犯人だと自首し、上巻は彼女が警察や弁護士に告白するという形で、時はマコが生きていた過去に遡る。

“マコは不思議でした
マコといると私は楽になる…
無意識のうちに自分に掛けていた枷が
ひとつひとつ外されていくようでした”

 ミヅキやマコの身に降りかかる現実は、なまやさしいものではなかった。あることをきっかけに、二人は秘密を共有するようになり、絆は強まっていく。ミヅキは「マコは不思議でした」と繰り返す。

“マコに見つめられると
私はどんな事だって できる気になれました”

 上巻後半になると、マコをストーキングするマコの元彼・裕樹が登場する。彼の存在、そして行動により二人の信頼関係は揺らぎ始める。

 読者がミヅキの告白に疑問を覚え始めるのはこのあたりからだ。

 前半に語られたミヅキとマコの信頼関係は、他人の存在で揺らぐものには見えない。ミヅキの告白の終盤、ミヅキの弁護士は違和感を覚え始めるが、それは読者も同じだ。

 そもそもミヅキが語る過去の話はすべて事実なのだろうか。嘘が紛れているのではないか。

 NONさんの画風はとても美しい。心情描写も丹念に描かれどのキャラクターにも個性がある。表情だけではなく、ミヅキとマコの性格は彼女たちの制服の着方にも表れている。制服のスカートを短くすることなく穿いているミヅキ、流行を追う女子高生らしく短くしているマコ…秘密を共有した後、二人、特にミヅキの表情は感情豊かになる。だからこそ読者は二人の関係が裕樹によって激変するとは思えないのだ。

 衝撃的な展開は、しっかりと読者の心をつかむ。これからどうなるのかだんだん読めてきたと思えた上巻ラスト、私たちの予想はひっくり返される。

 次の中巻は今年(2020年)冬に発売の予定だ。続きが出るのが待ち遠しい……というより、待ちきれないのは私だけではないだろう。

文=若林理央