ホタルやセミの死にざまに見る、命のはかなさ……。「生きる」とはどういうことか

スポーツ・科学

公開日:2020/10/1

生き物の死にざま はかない命の物語

著:
出版社:
草思社
発売日:
生き物の死にざま はかない命の物語
『生き物の死にざま はかない命の物語』(稲垣栄洋/草思社)

「生き物」の範囲は広い。動物はもちろんそうだし、植物も、私たち人間の体内にある細胞も生きていたり死んでいたりするので、広義の「生き物」に含まれる。去年発売された『生き物の死にざま』(稲垣栄洋/草思社)は、小説のような切なさで生き物たちの死にざまを描きベストセラーになった。ちょうど1年後にあたる今年7月、姉妹篇の『生き物の死にざま はかない命の物語』(稲垣栄洋/草思社)が刊行された。

 どの生物も、自分ではどうにもならない事情で過酷な生涯を送ることがある。

 例えば夏にミンミンと鳴くセミは、地上に出て成虫になってからはすぐに死んでしまう、まさにはかない生き物の代表格だ。ところが死ぬまでに成虫となり、鳴くことのできたセミは実は幸運だった。

“セミの幼虫は地面の下に潜って何年も暮らし、ある年の夏に、満を持して大人になる。まだ暗いうちに地面の上に這い出て木に登り、朝早くに羽化するのだ。”

 さて、ここで「あるはずの木がなくなっていたらセミはどうなるのか」という点に著者はスポットをあてる。木々が切られていたり、コンクリートで土が埋まっていたりした場合だ。

“本当であれば、セミは木の幹にしがみついて羽化し、抜け殻につかまりながら羽を乾かすのである。”

 しかし這い出た場所に木がないとそれができない。探し回った結果木が見つからず、仕方なく道路で羽化することがある。

 もうひとつ忘れてはいけないのは、羽化できないまま生涯を閉じるセミもいることだ。地上には天敵である鳥たちもたくさんいる。無事にすべてのセミの幼虫が成虫になれるわけではない。せっかく土の中に何年もいたのに。

 そんなセミの迎える最期を、著者は愛情をもって描く。

 セミと同じようにはかなさの象徴として思い出すのはホタルだ。ホタルは天敵に食べられないように時期をそろえて一斉に羽化し、オスのホタルは求愛行動のために光る。夜空にホタルの光が舞い、人間たちは「美しい」とそれを見つめる。

 そんな中、季節外れの時期に羽化する、たった一匹のホタルがたまにいる。仲間と出会うことがない孤独なホタルは夜空にぽつんと光る。

“それは彼にとって不幸なことなのだろうか。それとも……。”

 私たち人間は、他者と人生で関わりながら生きていくことがほとんどだ。生物の中では寿命も長いほうである。とはいえセミや季節外れのホタルを見て、ひとりぼっちだから、寿命が短いから私たちより不幸だと言い切れるだろうか。

 はかない命たちは、人間のように死後の世界を恐れることなく死んでいく。それは彼らにとってごく自然なことである。

 本書には他にもコウテイペンギン、ツキノワグマ、ゴリラ、クジラ、雑草などさまざまな生き物が登場する。本書の表紙をめくると、そでにこのような言葉がある。

“すべての生き物は「今」を生きている。
大切なのは「今」である。”

 すべての生き物の死にざまは、私たち人間にそれを教えてくれる。

文=若林理央

この記事で紹介した書籍ほか

生き物の死にざま はかない命の物語

著:
出版社:
草思社
発売日:
ISBN:
9784794224606