カルマは何を考えてきたのか。『ここ日本言うてな』は若者の人生観を変える1冊だ

暮らし

公開日:2020/10/7

ここ日本言うてな
『ここ日本言うてな』(カルマ/KADOKAWA)

「何者かにならなきゃいけない」――。今の若者たちは、そんな漠然とした不安を抱えているように思う。『ここ日本言うてな』(カルマ/KADOKAWA)は、そんな彼らにとって“人生を変える1冊”となるだろう。

 昨今、さまざまなYouTuberが本を出版している。その多くは、自らの人生をつづったものや、自分自身についてのプライベートな情報をさらけ出すものだ。ファンが読めば、好きなYouTuberのことを深く知ることができる。本書は、そういったYouTuber本とは一線を画すものだ。

 そもそも、カルマという人物をご存じだろうか。

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 YouTuberの世界に彗星のごとく現れ、圧倒的な規模の動画でバズを起こし続け、あっという間に登録者数100万人を突破。事務所などに所属せず、自らの力で企画から動画編集までを手掛けているという。一方で経歴や私生活はほとんど明かさず、巷では「カルマっていったい何者なの?」とささやかれてきた。

 そんな彼が書いた、「最初で最後の本」と謳われる本書。いわゆる自己啓発本ともビジネス本とも違う。読み終わった後の感覚をたとえるなら、映画を観終えたときのような達成感だ。

両親の離婚、虐待、暴走行為、そして少年院…初めて明かされる過酷な半生

ここ日本言うてな カルマの生い立ち

 本書は、筆者カルマの壮絶な過去から明かされていく。

 幼い頃の家庭環境、両親の不和や離婚、突如始まった「お兄さん」との暮らし。虐待を受け、まわりの大人に対する不信感を募らせながら、幼いカルマが考えていたこと。そして、暴走行為をきっかけに送致された少年院での暮らし。

 彼の、予想以上に過酷だった半生が、目に浮かぶような緻密な描写で綴られ、追体験できる。ここまででも正直お腹いっぱいなのだが、本書のメインはここからだ。

言葉の一つひとつが、実体験に基づいた重みのあるメッセージ

 CHAPTER1以降の本編では、彼自身がどのようにして夢を叶えてきたか。その思考の仕組みが克明に書かれている。

 YouTuberらしい具体的なテクニックも一部書かれているが、そういったノウハウはどうしても対症療法的なものが多い。それに読者みんなが真似したら、デフォルトになって埋もれていってしまう。

 彼が真に伝えようとしているのは、さらに一段も二段も深い部分のメッセージだ。ネットでは、「よくある自己啓発本みたいな内容」という感想も見られる。けれども感じてほしい。彼は自分が手を動かして実行し、経験し、それによって生まれた結果に向き合い、そこから自ら分析したことしか書いていない。だから説得力があるのだ。

常に疑え。そうしたら本質を考える癖がつく

 あなたは今学生だろうか、それとも社会人だろうか。

 進学にせよ就職にせよ、まわりの大人に勧められるがまま選んできてしまった、という人も多いだろう。カルマは「なぜ多くの人は大学を目指すのか。大学で得られるものが本当に自分に必要なのか、見極めた上で進学すべきだ」と、無思考に従いがちな世の中に切り込む。

 決して、「大学なんて行くな」というメッセージではない。

 あくまで「自分にとって必要なものかどうか、正解は自分で考えろ」と、彼はそう指し示している。

 正解は人によって違う。だから、カルマにとっての正解を読者に示しても意味がない。多くの人は、特に若いころには、示された正解に従いたくなるものだ。しかしそれでは、ずっと何かにすがって生きていくことになってしまう。カルマのメッセージは少しドライなようでいて、もっとも本質的な救いを読者に差し伸べていると思う。

 他にも、「人が作った教科書に従うな。教科書は自分で作れ」「もっと本能的に、『腹減ったから肉食べる』くらいの感覚で生きようぜ」「きっかけは嘘でもいい。それを真実にできるなら」など、見出しには引力のある言葉が並ぶ。プロローグで彼の半生を読んだ後だからこそ、これらの言葉がグサグサと刺さってくるのだ。

 将来に悩んでいる人、新たな一歩を踏み出せずにいる人の背中を押す1冊であることは間違いない。この本を読む行為そのものが、考える機会となり、自分を見つめ直すきっかけになるだろう。

ここ日本言うてな カルマ

文=持田ねころ 撮影=横山マサト