奪われた魔力を取り返せ! 主のため、仲間のために一生懸命がんばる猫又メイドが愛おしい!

マンガ

公開日:2020/10/9

怪物メイドの華麗なるお仕事
『怪物メイドの華麗なるお仕事』(田辺ゆがた/KADOKAWA)

 犬は従順、猫は気まぐれと言われるように、猫は甘えたいときに甘え、気の向くままに自由に過ごすというイメージが強い。そのマイペースっぷりが猫の魅力でもあるわけだが、たまには「主のために一生懸命尽くす猫」というのもギャップがあってキュンとする。『怪物メイドの華麗なるお仕事』(田辺ゆがた/KADOKAWA)は、そんな自分を助けてくれた主のために一生懸命な猫(猫又)の姿を描いた作品だ。

拾ってくれた主に尽くしていた猫又・スミレ。でも実は――

 本作品の主人公は、気がついたら猫又になっていた猫のスミレ。猫だった頃の主が死に、猫又となって魔界で迷子になっていたスミレは、ある日氷の魔女メアリー・ファリナセアに拾われる。拾ってくれたメアリーに恩を感じたスミレは、メイドとして彼女に仕え慣れない家事を必死でこなす日々を送っていた。そんな中、メアリーの元に新たなメイドが2人やってくる。アンデッドのローズ、人造人間のアイビーだ。

怪物メイドの華麗なるお仕事

怪物メイドの華麗なるお仕事

 ローズとアイビーは「サーシウム家政婦派遣事務所」に勤めているメイドだが、実は彼女たちには隠された任務があった。それは、事務所の社長として働く王兄殿下の魔力を取り返すこと。王兄殿下は以前、ある悲しい争いで弟に魔力を奪われてしまったのだ。その奪われた魔力は弟の配下にいる者が使っており、メアリーもその1人だった。そしてメアリーは、その魔力を使って人に言えない“とんでもない趣味”を楽しんでいて――。

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 危うくメアリーの“趣味”の犠牲となるところだったスミレは、危機一髪のところで救い出され、そこからこのサーシウム家政婦派遣事務所で働くことに。メイドとしてはまだまだ半人前のスミレだが、彼女には、魔力を“キラキラ”として目で見る才能があり、この能力をローズやアイビー、そして社長に買われたのだ。

怪物メイドの華麗なるお仕事

 こうしてスミレはローズ、アイビーとともに社長の指示のもとメイドとして派遣先に赴き、魔力を回収していくこととなった。

「もっと仲良くなりたい…」スミレの持つ人間らしさが愛らしい!

 自由気ままに人を振り回すイメージのある猫だが、スミレはむしろ常識的で、与えられた仕事に真面目に取り組む忠誠心を持っている。とはいえ、やはり猫。序盤では食器を置けば料理を落とし、お茶を淹れるだけでキッチンが大惨事と普通以下の仕事しかできず、そんな自分に落ち込む姿も描かれる。でも、新たに雇い主となった社長が与えてくれた仕事には、猫だからこそ成功させられたものも。任務のあと、社長に「お前でないとできなかったな」と労われ嬉しそうな笑顔を見せるスミレには思わず頬が緩む。報われてよかったねスミレ…!

 後半では、自分の置かれている状況に慣れてきたスミレが人間(?)関係に目を向ける場面も。アイビーが社長のおやつを食べたことで2人がケンカしているシーンでは、スミレは「私も早くみなさんともっと仲良くなりたい…」と寂しそうな表情を浮かべている。

怪物メイドの華麗なるお仕事

怪物メイドの華麗なるお仕事

 スミレは猫だった頃はただ主を見ていることしかできず、猫又になりメアリーに拾われたあとも仕事で手一杯で、今まで「仲良くなりたい」なんて思う余裕はなかったのだ。それにメアリーは、スミレのことを“趣味”を充実させるための人形としか見ていなかった。

 つまりスミレにとって、みんなでわちゃわちゃ過ごすというのは初めての経験なのだ。そのため思うように溶け込めず、もどかしさと不安がスミレの中で湧きあがっていく。でも本当は、みんなにとってスミレはとっくに――。

 普通の人間であっても、不安に駆られて自信をなくしていると周りが見えなくなることがある。些細なことが気になって、必要以上に落ち込んでしまうこともある。スミレから感じるそういった“人間っぽさ”が、魔界という架空の世界に生きるキャラクターたちを身近に感じさせてくれる。そして応援したい!と思わせてくれる。

 この『怪物メイドの華麗なるお仕事』1巻ラストでは、頼れるお姉さん的存在であるローズの身に危機が迫る場面も描かれますます気になる展開に! これから3人がどんな相手の元へ派遣されていくのか、どんな任務が待ち受けているのか、目が離せない。

文=月乃雫