「自粛要請」も「濃厚接触者封じ込め」も岩国藩は徹底していた! 感染症の日本史に学べることとは?

社会

公開日:2020/10/8

感染症の日本史 (文春新書)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
感染症の日本史
『感染症の日本史』(磯田道史/文藝春秋)

「こんな時代がくるとは思わなかった」。新型コロナウイルス流行に対して、そう感じる人は少なくないだろう。だが、長い歴史の中で見れば、感染症の流行は決して稀ではない。20世紀以降に限っても、スペイン風邪、アジア風邪、香港風邪、新型インフルエンザ、そして、今回の新型コロナウイルスと、数十年に一度の頻度で世界規模での感染症の拡大が起きているのだ。

『感染症の日本史』(文藝春秋)は、歴史家・磯田道史氏が、平安の史書や江戸の随筆、100年前の政治家、文豪の日記などをもとに、感染症と対峙してきた日本人の知恵に光を当てた一冊。

 感染症との戦いの歴史には、成功もあれば、失敗もある。それを知ることは、新型コロナウイルスとの向き合い方を考えるヒントになるかもしれないと磯田氏は述べる。確かに、歴史に学ぶことは良いことに違いない。実際に私たちもその歴史に学び、新型コロナウイルスとの向き合い方を考えてみよう。

「濃厚接触者の隔離」×「補償の充実」!藩主の感染ゼロを実現した岩国藩

 実は、歴史を遡れば、「自粛要請」も「給付金」も「出社制限」も「ソーシャル・ディスタンス」も遥か昔から存在していた。たとえば、江戸時代の自粛は、将軍や藩主など、お殿様に病をうつさないことが目的だった。その点、岩国藩は徹底していたといえるのだそうだ。

 痘瘡(天然痘)が流行すると、武士・領民の登城や外出を禁止。この制度は他藩にもあったが、岩国藩はさらに特定の村を隔離地域に指定し、患者だけではなく、病人を看病した者や病家の隣家、病家を訪れた人なども隔離した。今でいう「濃厚接触者」の封じ込めをすでに行っていたのだ。

 さらに岩国藩は、補償も充実。隔離費用は、生活費も含めて、領主がすべて負担したという。その結果、江戸幕府歴代将軍では15人中14人が痘瘡に罹患したのに対して、岩国藩の藩主は、歴代で誰一人として痘瘡にかからなかったという事実がこの本には記載されている。まさか江戸時代から徹底した濃厚接触者の封じ込めと補償の充実が行われていただなんて、多くの人は知らなかった事実だろう。現代の為政者もぜひ参考にしてほしい感染拡大防止策だと感じるのはきっと私だけではないはずだ。

酒は慎め? セックスは回数を減らせ? 牛疫に伴う明治政府の自粛要請

 自粛要請は、明治政府下でも出された。家畜伝染病・牛疫の脅威に際して公布した「太政官布告」では、人々のあらゆる生活の自粛を要請しているのだそうだ。体や衣服を清潔に保つことや掃除をすること、窓を開けて換気をすることなどを盛り込んでいるのは納得だが、「酒を断てとまでは言わないが、暴飲は慎め」「セックスは節制せよ、回数を減らせ」とまで言及しているのは驚きだ。

 磯田氏は、現代ならばプライバシーの侵害となるかもしれないが、感染症の流行を抑え込むためには、ねやごとにまで介入するという明治政府のリアリズムを、ここにみることができると述べる。実際、牛疫は、人にはうつらなかったわけだから、素人の私から見れば、やりすぎだった気がしなくもないが…。

スペイン風邪の政府の失敗

 一方で、1918年〜20年に全世界で大流行したスペイン風邪では、政府の対応は手薄だった。したことといえば、「うがいの徹底」と「マスクの着用」を要請したくらい。米国では大勢の人が集まるイベントの禁止や患者の隔離が行われ、その情報は日本政府にも入っていたのだが、日本は、国民の生活を抑圧するような政策をとることができなかった。当時はロシア革命の時代。それに、日本では米騒動が起きるなど、国民の不満が高まりつつある時代でもあった。生活を制限することで、政府への批判が強まれば、社会主義革命が日本に波及する可能性もある。政府はそのことを恐れていたのだ。

 その結果、日本でのスペイン風邪の死者は本土だけで45万人超に上った。他国で最善と思われる対策事例があるならば、躊躇せずにすぐに真似た方が良い。それが感染症の被害を防ぐための過去からの教訓だと磯田氏は述べる。

 日本人が今まで感染症に対してこんなにもいろいろな経験を積んできていたとは…。過去を知ることは、間違いなく現代の私たちの力になる。コロナ禍の今だから読んでおきたい一冊。

文=アサトーミナミ

この記事で紹介した書籍ほか

感染症の日本史 (文春新書)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
ISBN:
9784166612796