アニメ化も決定! トラブルで福井に戻った少年と優れた身体能力を持ちながらプレッシャーに弱い幼なじみのバレーに懸ける青春!

文芸・カルチャー

公開日:2020/11/5

2.43 清陰高校男子バレー部
『2.43 清陰高校男子バレー部』(壁井ユカコ/集英社文庫)

 東京の強豪中学バレー部で名セッターとして活躍しながら、あるトラブルから母方の郷里、福井県に帰ってきた灰島公誓。公誓の幼なじみで、優れた身体能力を持ちつつも、あがり症の黒羽祐仁。久々に再会した2人は地元中学のバレー部でコンビを結成するも、県大会で決定的な衝突をしてしまう。そして高校進学後、バレーによって断絶した彼らは、バレーを通して再び出会い直す…。

 ノスタルジックな青春ホラー『サマーサイダー』(文藝春秋)や、中華ファンタジー「五龍世界」シリーズ(ポプラ社)など数多くの作品を発表してきた壁井ユカコさん。WEB文芸サイト「集英社 文芸ステーション(旧 集英社WEB文芸レンザブロー)」(https://www.bungei.shueisha.co.jp/)で2012年より連載を開始した「2.43 清陰高校男子バレー部」シリーズ(集英社文芸単行本/集英社文庫)が、爆発的な人気を集めている。

 装画を担当している山川あいじさんによるコミカライズに加えて、2021年1月からはフジテレビ「ノイタミナ」枠にてTVアニメーション化が決定している。

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 題名の「2.43」とは、高校男子バレーボール全国大会におけるネットの高さを表す数字だ。2メートル43センチという、家の天井とほぼ同じくらいの高さで選手たちは白熱の戦いを繰り広げるのだ。

 中心軸となる祐仁と公誓のユニチカコンビをはじめ、清陰高校バレー部のメンバーはいずれ劣らぬ個性派ぞろい。バレー選手としては背丈が低めであることに悩む主将の小田。そのよき女房役であるクールな副主将・青木。日光アレルギーで屋外でプレイができない棺野。

 たしかな実力を持ちながらも弱小チームに甘んじていた彼らのもとに、祐仁と公誓が加わったことで化学反応が起こり出す。ときに仲間同士で衝突しつつも、そのたびにチームとしての強度を高めて、少しずつ強くなっていく。目指すは高校バレーの最高峰のイベントである、全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称“春高バレー”だ。

 3年生の小田と青木にとっては、もしかしたらこれが最初で最後の大舞台になるかもしれない大会。一方、1年生の祐仁と公誓にとっては、今後のバレーボール人生を切り開くことになるかもしれない大会。

 そんな青春のただなかにある彼らの姿が、特に第1シリーズの第1巻には凝縮されている。

 第1話では、物語の原点ともいえる祐仁と公誓の中学生時代が描かれる。続く第2話では、女子バレー部員・荊の目を通して棺野と、くすぶっている男子バレー部の様子が活写される。そして第3話では、バレーと進路の岐路に立つ小田と、彼を見守る青木のエピソードが展開。

 連作短編の構成をとって、さまざまな人物の視点と立場から、清陰高校男子バレー部が本格的に始動するまでが綴られている。

 春高の予選まであと3カ月。このメンバーでコートに立つのは、この大会だけだ。第2シリーズでは、県代表の座をめぐって戦う「代表決定戦編」が。第3シリーズではさらに「春高編」へと突入する。そして現在「集英社 文芸ステーション」では、さらなる高みへと飛翔しているユニチカの姿を追う最新シリーズが大好評連載中だ。

 バレーボールに青春を懸ける男子たちの輝きを、みずみずしく、切実に描き出す「2.43」シリーズ。バレーに興味がある人はもちろん、ない人の胸をもきっと熱くさせるものが、たくさん詰まっている。

文=皆川ちか