好きな仕事に忙殺される人生は幸せ? “今日の仕事”と“人生全体”に共通すること

ビジネス

公開日:2020/10/16

『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(石川善樹/NewsPicksパブリッシング)

 やりがいのある仕事やお給料の高い仕事は、えてして激務である。残業続きで大きなプロジェクトを完遂した後、「自分の人生、これでいいんだっけ?」とふと悩むことはないだろうか。たまたま忙しい会社に入ったが、本当は「ほどほどに稼げればよかった」という人もいるだろう。ワークライフバランスの悩みは、人類が労働から解放されない限り、尽きることはない。
 
 本書『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(石川善樹/NewsPicksパブリッシング)は、時間の使い方を説く本だ。だが、よくある“時短術”ではない。「よく生きること」をテーマとする予防医学研究者の著者は、ビジネス上の論理も巻き込みながら、包括的な人生論・仕事論を展開する。

人生の質はWell-DoingとWell-Beingのバランスで決まる

 著者は、人生の時間戦略において、常にこの2つのバランスが重要だと述べる。

Well-Doing(よく“する”こと)
Well-Being(よく“ある”こと)

 Well-Doingは、比較的わかりやすいだろう。考える、会議や仕事をする…など、目的をもって何かを“する”時間だ。ハードワーカーは、Doingが多いということでもある。

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 一方、Well-Beingは、何かを感じたり、目的なく雑談するような時間を指す。ワークライフバランスの「ライフ」の時間だといえばピンとくるだろうか。

 忙しく働く人は「Well-Beingの暇なんてない!」と思うかもしれないが、これは仕事のパフォーマンスを上げるためにも大切な考え方だ。著者の研究によれば、Well-Being度の高い職場は、モチベーションや創造性が高く、結果的にWell-Doing度(生産性と収益性)が上がるという。Well-Beingを高める最も重要な要素は「信頼の文化」。ただ目の前の仕事を機械的にこなすのではなく、メンバー同士が信頼し合い、「ひとりの人間として認められている」感覚があることが大切になる。

「大局観」モードがアイデアを生む

 仕事でいいアイデアを生むためにも、DoingとBeingの意識が役に立つ。まずは、それぞれの定義に、「みんなで」「ひとりで」を足してみよう。

みんなでDoing:会議、プレゼン
ひとりでDoing:企画、読書
ひとりでBeing:散歩、お風呂
みんなでBeing:飲み会、旅行

 また、著者は、いいアイデアを出せる人は、以下の3つのモードの切り替えがうまい人だと語る。

直感:アイデアを出す
大局観:アイデアを絞る
論理:アイデアを決める

「直感」でアイデアをたくさん出し、「大局観」でめぼしい数個に絞る。最後に「論理」でひとつに決定する。この3つのモードには、それぞれ入りやすいDoing/Beingがある。「直感(アイデアを出す)」モードは、散歩のようにぼーっとすること(ひとりでBeing)。「論理(決める)」モードは、会議でみんなと議論すれば自然に入れる(みんなでDoing)。

 最後は、「大局観(アイデアを絞る)」。ここで行われるのは、「具体と抽象の往復」だ。個別のアイデア(具体)と、目指すべき方向性(抽象)を往復することで、大量のアイデアを絞っていく。残る「ひとりでDoing」「みんなでBeing」が、この「大局観」モードへの入り口だ。

「ひとりでDoing」は、企画や読書の時間にあたる。企画書の作成であれば、チームの戦略(抽象)と実際の企画(具体)を比較しながら、落としどころを決める。ビジネス書を読んでいるなら、書かれている理論(抽象)と自分の置かれている状況(具体)を往復することになる。

「みんなでBeing」は、飲み会や社員旅行など、多人数で目的のないことをする時間。飲み会では、個人的な話(具体)が多くを占める一方で、時折「うちの会社は」「人生とは」と大きな話(抽象)へも飛躍するだろう。これもまた、「具体と抽象の往復」というわけだ。

 本書は、より詳細な「1日」「1週間」の過ごし方から、100年スパンといわれる人生まで、DoingとBeingで語りつくしていく。最後には、話が宇宙にまで飛躍するから驚きだ。目の前の仕事に忙殺されていると感じるときは、意識的にBeingの時間を作ってみてほしい。少し立ち止まったときに、思わぬ気づきが得られるかもしれない。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7