外交官やジャーナリストも愛読する『ゴルゴ13』は世界情勢の裏ナビ!? 大学教授が分析する、その魅力とは

文芸・カルチャー

更新日:2020/11/18

ゴルゴ13特別授業
『ゴルゴ13特別授業』(土岐寛/幻冬舎)

 漫画は今や日本が世界に誇る文化であり、長い歴史の中で著名な長寿作品も数多く生まれた。その中でも『ゴルゴ13』は、漫画をあまり読まないという人でも名前を知るであろう名作中の名作だ。1968年の11月に連載が始まった同作は現在、50年以上も連載が継続している長寿作品の代表格でもある。ゆえに当然ファンも多く、その読者層は幅広い。もちろん大学教授とて例外ではなく、大東文化大学名誉教授である土岐寛氏も熱烈なファンであり、それが高じて『ゴルゴ13特別授業』(土岐寛/幻冬舎)を上梓するに至った。

 本書は「特別授業」となっているように、教授が生徒の質問に答えるという授業形式で展開。土岐氏は『ゴルゴ13』が連載されている雑誌「ビッグコミック」を1977年からずっと保管しているというツワモノで、まさしくゴルゴのすべてを知り尽くしているという感がある。そんな氏から見たゴルゴは一体どのような存在か、気になるところをピックアップした。

ゴルゴはレオナルド・ダ・ビンチか!?

 一般にゴルゴ13といえばスゴ腕の殺し屋として知られ、特にスナイパーとしての技量は超一流である。しかしそれはゴルゴの能力の一端にすぎず、実は多くの分野でのエキスパートでもあるのだ。例えば格闘技など肉体を駆使した戦闘にも長け、主要言語以外にヘブライ語など18カ国語をマスターしている。加えて医学や薬学にも精通しており、自らの負傷を在りあわせの道具で治療したりするのだ。そして本書では「異次元実験の危機」というエピソードで、理論物理学者ミルザ・ニーシャ博士が「ゴルゴは別次元の天才、ダ・ビンチレベル」だと語っていると紹介。ダ・ビンチは万能の天才とも呼ばれるが、ゴルゴはまさにその領域にあるということなのである。

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外交官の必読書!? 「世界情勢の裏ナビ」とも呼ばれる『ゴルゴ13』

 ゴルゴは殺し屋として、世界を股にかけて活動する。依頼人が世界各国の重要人物であることも多く、必然的に当時の世界情勢が物語の背景となってくるのだ。元外交官の佐藤優氏がロシアの大使館勤務時代には『ゴルゴ13』を取り寄せて、回し読みしていたという。それだけ世界情勢や社会背景などの設定がリアルに描かれており、それが「世界情勢の裏ナビ」と呼ばれる所以だ。そのリアルさゆえに、国会の質問で扱われたこともある。当時、財務大臣だった谷垣禎一氏に対し「PKO プライス・キーピング・オペレーション」(2004年440話)についてどう思うかという質問で、谷垣氏は「今の立場を離れて読めば面白い」と答えたという。

各界著名人に多数のファンあり!

『ゴルゴ13』が50年を超える長寿作品となったのは、当然多くのファンの支持を得たからだ。その中には多くの著名人も含まれる。例えばジャーナリストの池上彰氏は30歳の頃から『ゴルゴ13』を意識的に読み始めたそうだし、大谷昭宏氏も「知性をエンターテイメントで煮詰めた極上の一品」と賛辞を送っているという。またゴルゴのプロフェッショナルな姿勢は、スポーツ選手の共感も呼んでいる。プロ野球の元阪急で投手として活躍した山田久志氏は「失敗が許されないゴルゴの世界はピッチャーの感覚に近い」といい、オリンピック柔道の金メダリスト・吉田秀彦氏は不測の事態への対応力をゴルゴに学んだと語っているのだ。他にもビジネス界や芸能界など、幅広くファンが存在することこそがゴルゴの魅力を証明しているといえる。

 本書はゴルゴのエピソードをコミックス未収録話に至るまで詳細に分析し、その魅力を伝えている。それだけにおそらく本書を読んだ後、ほぼ確実に『ゴルゴ13』を読みたくなるはずだ。とはいえコミックスは2020年9月現在、198巻も刊行されているので、読破するにはハンパない覚悟が必要かもしれないのだが──。

文=木谷誠