「夢を見るだけ」では何が足りない? 転職する人もしない人も知っておきたい仕事と年収の理論

ビジネス

公開日:2020/10/23

『20代で人生の年収は9割決まる。』(土井英司/日本経済新聞出版)

 ビジネスパーソンの生涯年収は約3億円といわれる。ただ、社会がめまぐるしく変わりつつある今、その常識はこの先でも通用するのかと疑問も浮かぶ。コロナ禍で周囲の環境が変化しているのはもちろん、転職や副業など、働き方の選択肢も無数に考えられるからだ。
 
 これからの時代を見据えるとそれは不確実と語るのは、ビジネス書『20代で人生の年収は9割決まる。』(土井英司/日本経済新聞出版)。タイトルに「20代」とあるものの、本書の内容は、すべての世代にとって役立つはずだ。

仕事の本質は「日々の雑用」に隠れている

 かつてAmazonのカリスマバイヤーとして活躍し独立、現在は会社経営をしている著者は、自社であったエピソードを「恥ずかしながら」と明かす。
 
 ある日、著者の会社で新入社員がお茶くみをしていた。グラスに入ったお茶は今にもあふれんばかりになみなみと注がれていたが、新入社員にその理由を尋ねると「ちょうどペットボトルが空になりそうだったので、全部入れてしまいました」と答えたという。
 
 さて、この話で教訓とするべきところはどこか。著者は、彼の行動について「めちゃくちゃ自己中心的」なお茶くみだったと指摘する。
 
 そもそも、彼の言った「ペットボトルが空になりそうだった」とする理由には、飲む人への配慮がまったくないというのが著者の見解だ。相手がお茶を飲みやすくするためにどう考えるかは、いわば人に喜んでもらい、お金をもらうために、自分の能力を役立てるという仕事の本質にも繋がること。それは「日々の雑用に宿る」と肝に銘じておくべきと本書で述べている。

プライベートで「プラスα」の強みを見つける

 与えられた仕事をこなせるのは、当たり前のことだ。しかし、さらなる自分の強みを作るにはどうするべきか。著者は、それぞれの得意分野は「プライベートからしか生まれない」と示す。

advertisement

 例えば、会社のあるポジションで働いていると年数が経過すればそれなりのスキルが身についているはずだ。ただ、自分がもっと活躍したいと思うならばそれだけではダメで、人と差を付けるには「できることではなく、プラスαの部分」を見つける必要もある。

 そのためにやっておきたいのが、自分が何気なく過ごしている「プライベート」を振り返ってみることだ。例えば、ゴルフが上手ければ、営業取引先との距離を近づけるきっかけになるかもしれない。趣味が英会話学習で英語がペラペラであれば新たな営業先を獲得できるかもしれない…と、発想は無限大に拡がる。

 ただ、仕事の片手間で、先々で役立ちそうだからと「習い事」をするといった流れでは本末転倒。あくまでも、今の自分の武器は何かと問いかけるようにしたい。

転職するなら「やりがい」よりも「欲しい結果」を決める

 コロナ禍の影響で、今あるキャリアを見つめ直している人たちもいるはずだ。転職や副業を視野に入れて、実際に動き始めている人たちもいるかもしれないが、仕事は「やりたいこと」よりも「欲しい結果」で選ぶよう著者はすすめている。

 仕事を選ぶとき、「やりがいがあることをしたい」という意見はよく見聞きする。しかし、それは必ずしも「やりたいこと」に繋がっているわけではなく、成果に結びつかない可能性もある。

 ただ、著者はその考え方自体を否定しているわけではない。大切なのはプロセスであり、はじめに「欲しい結果」を決めて「ちょっときついけど、まあ耐えられる」くらいのものを耐え抜いていけば、いずれは「やりがいのある、やりたいこと」にたどり着けると指摘する。

 結果についても、まわりの人の幸せ、高収入、人に認められるなど何でもよい。1度でも達成できれば「人はその報酬の中毒」になるというが、大なり小なり辛い場面があったとしても、評価が付いてくればやがては自分のやりがいにも繋がっていくだろう。

 さて、ビジネスパーソンにとっての“生き方”を伝える本書は、20代にとっては今後の人生に向けた指南書として、それ以上の人にとっては自分のキャリアを振り返らせてくれる1冊になるだろう。誰もが仕事との新たな向き合い方を問われている今だからこそ、ぜひ目を通してみてほしい。

文=カネコシュウヘイ