辞めたいのに辞められない!? ブラック企業に勤める人にもぜひ読んでほしい「退職代行」マンガ

マンガ

公開日:2020/11/4

『さよならブラック企業 働く人の最後の砦「退職代行」』(外本ケンセイ:著、小澤亜季子:監修/少年画報社)

 10年前、私にとって「働くこと」は苦しみでしかなかった。日曜日の夜は憂鬱で月曜日の朝、制服に腕を通していると涙が止まらない。ワンマン社長からパワハラを受けていたあの頃、精神は限界で1日でも早く会社を辞めたかった…。けれど、実際に実行できたのは「辞めたい」と思った半年後。暴言を浴びせられるかと思うと、「辞めたい」という一言がどうしても言えなかったのだ。そんな経験があったから、近年話題になっている「退職代行」というサービスを初めて知った時、もっと早く登場してほしかったと心の底から思った。
 
「退職代行」は本人に代わって退職の処理を行ってくれるというもの。ブラック企業に勤めている人にとっては心強い味方となる一方で、社会人としての責任感がないのでは…という声も寄せられるなど、賛否両論のサービスでもある。『さよならブラック企業 働く人の最後の砦「退職代行」』(外本ケンセイ:著、小澤亜季子:監修/少年画報社)は、そんな新サービスをテーマにした労働系コミックだ。

パワハラ上司に限界を感じていた時に出会ったのは…

 大手不動産会社の電話営業代理店会社「コールドリーマー株式会社」で働く水城リコは、パワハラが横行する職場で苦しんでいた。社内では優秀な社員はとことん優遇されるが、目に見える結果を出せないと嘲笑の的となる。

 それでもリコがなんとかやってこられたのは、直属の上司が面倒見のいい人だったから。過去に夢を諦めたこともあり、「今度は逃げない」と思いながら会社に通い続けていた。ところがある日、信頼していた上司がいきなり会社を辞めてしまう。会社側はその責任をリコたちに押し付け、辞めた上司の分まで稼げと要求。暴言を浴びせられながら休日出勤をするのがリコの日常となり、メンタルはもはや限界に。

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 そんな時に出会ったのが、退職代行を取り扱っているという弁護士の不知火基子。現状について話すと、不知火は「人生の選択肢は無限にある」と言ってくれた。この言葉が心に刺さったリコは、会社で上司に反発する。

 その結果クビにされてしまうのだが、リコはひょんなことから不知火の事務所で事務員として働くことに。かつての自分と同じような境遇にいる人たちを助けたいと思い始める。

 しかし、現実はそう甘くはない。よかれと思ってかけた言葉によって、不当賃金で苦しむOLの神経を逆なでしてしまったり、かつて自分にパワハラを行っていた元上司に再会したりと、リコの新生活は波乱万丈だ。しかし、その中でリコは自分なりに働くことの意味を見出していく。その姿を見ていると、読者も「自分は何のために働いているんだろう?」と、つい考えたくなってしまう。

 この社会では、真面目な人や責任感が強い人ほど、「石の上にも三年」ということわざを心のお守りにし、不当な扱いにも耐え続けている。たしかに組織の一員となるからには、ある程度の我慢や妥協が必要不可欠。しかし、もし、その我慢によって心が壊れてしまうのならば、「退職」をひとつの人生選択としてみてほしい。

 長時間労働や上司からの人格否定が当たり前になると感覚が麻痺してしまうが、あなたを不当に拘束したり、蔑んだりする権利は本来なら誰にもない。仕事は心を削るためではなく、生きるためにするもの。YouTuberやフリーランスなど近年は多様な働き方も増えてきているからこそ、「会社に属す」ということだけに執着せず今より生きやすい道を模索してみてほしい。

 ちなみに、本作の監修を手掛けた小澤さんは実際に退職代行を取り扱っている弁護士であるため、作中には明日から役立つ労働Q&Aもコラム形式で記されている。ぜひこちらもチェックしながら、「死」に向かわなくてもいい働き方を考えていこう。

「退職」は逃げではなく、今よりももっと笑える日々を掴むためのスタートになるはずだ。

文=古川諭香