将棋に夢中な息子と一緒に将棋好きになる母。「将棋ライフ」をエンジョイする親子にほっこりする将棋マンガ

マンガ

更新日:2023/2/10

ひらけ駒
『ひらけ駒!』(南Q太/講談社)

 将棋マンガは数あれど私は『ひらけ駒!』(南Q太/講談社)を推したい。将棋に夢中な小学生とそれを見守る母の物語だ。

 2011年に発表された少し懐かしい作品だが、読んで感じることは「将棋の楽しさ」である。「楽しさ」が魅力の将棋マンガを私は他に知らない(もしあるなら、ぜひ教えてほしい)。

 とにかく主人公の少年・宝がうれしそうに将棋を指し、勝って喜び負けて悔しがるのだが、その単純さが、私のような将棋素人にはすごく楽しめる。また将棋に限らず何かに没頭している子どもを持つ親も共感できるだろう。

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 将棋は、アツい戦い、勝利と敗北、そして奨励会(プロ棋士の養成機関)の厳しさ、といったマンガで分かりやすい要素を多く含んでいる競技だ。けれど、本作はそういったヒリヒリする将棋マンガではない、ということは最初に伝えておきたい。本稿では序盤の3巻くらいまでを中心にレビューしていく。

将棋が楽しくてしょうがない! 少年・宝とその母の成長物語

 菊地宝(きくちたから)は将棋好きな小学4年生。将棋道場で腕を磨き、将棋スクールで学び、対戦サイトにアクセスし、大会に出かける。夜中まで将棋本を読み、その本たちにまみれて眠る。まさに夢中だ。学校の成績は…なので宝の母(名前は出てこない)は少し心配…。

 そんな宝は勝ってはしゃぎ、負ければ泣くほど悔しがる、母には将棋についてとにかくうれしそうに語りまくる。

道場の駒はプラスチックのやつでさぁ
ペチッて音なんだよプラは
木のやつだったらパシッ!って音がするの
でね木のすごくいいやつは
パッ…シィィィィィィィ……
…て音がするんだよ!

 宝に何を言われても「へー」などと、そこまで興味を持っていなかった(というか分からない)母。しかし彼女も、いつしか息子に影響され、将棋に魅せられていく。生来、負けず嫌いで勝負ごとに情熱を燃やす。そのうえミーハーであった。

 宝に将棋の話を聞かされ、プロ棋士にも詳しくなる。実際に会って宝をほめてくれた棋士を好きになる。子どもの親同士でも張り合うように。さらに最初はただ温かく見守っているだけだったが、彼女自身も対戦ゲームに手を出し、宝に教えてもらいながらやっていく。そしてついに、実際の将棋を指すことになる。3巻では女子アマ団体戦に出場してしまうのだ。

 将棋にどんどんのめりこんでいく宝(初段※)と母(15級※)親子が、とにかく明るくコミカルに描かれる。※3巻時点

「子どもの本気に影響を受け、親もハマる」という“あるある”

 本稿のライターは息子を持つ親だ。彼が何かしら夢中になってくれるものに出会えるとうれしい、と思っている。スポーツでも、宝のように将棋でも何でもいい。本人が「好きだ」と思えるものを、自発的に学んで成長することは、学校の勉強では得られないからだ(なかには受験を自発的にやりたいと思う子どももいるかもしれないが…)。そんな「何か」に出会えた子どもは本当に幸運だ。さらに言えば、子どもが親に影響を与えることもある。

 知り合いのママ友は、子どもがサッカースクールに行きはじめ、気が付けば子どもと一緒にサッカーを見るように。自分もフットサルを始め、自分の好きな選手をみつけて今や立派なサポーターだ。子どもが小さい頃から続けている高校バスケットの応援に、巨大な望遠レンズ付きカメラを持って毎週末出かけるママ友もいる(特に強豪校ではない)。菊地母のように、子育てから自分の趣味ができる、これもまた幸せなのではないだろうか。

『ひらけ駒!』は全8巻、宝は強くなり、やがて研修会(奨励会の下部組織)をすすめられるようにまでなる。ヒリヒリした戦いになるかと思いきや、宝は宝のままなので安心してほしい。もちろん菊地母もだ。

 この続編にあたる『ひらけ駒!return』は、宝が将棋を始めた小学3年生頃にさかのぼり、ついにプロを目指す決意までが描かれる。こちらは全2巻。将棋ライフを明るく楽しむ母子の物語は、将棋好き、子育てマンガが好きな方両方にぜひ読んでみてほしい。

文=古林恭