今月のプラチナ本 2012年8月号『七夜物語』 川上弘美

今月のプラチナ本

2012/7/6

七夜物語(上)

ハード : 発売元 : 朝日新聞出版
ジャンル:絵本・こども・図鑑 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:川上弘美 価格:1,890円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『七夜物語』

●あらすじ●

小学校4年生のさよは母と2人暮らし。ある日、図書館にひとりで出かけたさよは、薄ぐらい棚で一冊の古びた本を見つける。本をめくると扉には、さよと同じくらいの髪の長さの女の子と半ズボンをはいた男の子が描かれていた。本の題名は『七夜物語』。だが不思議なことに、いったん図書館を出てしまうと、冒頭の文章以外は本の内容をすっかり忘れてしまう。その日から、図書館に通い、少しずつ『七夜物語』を読み進めるさよ。この不思議な本に導かれ、同級生の仄田(ほのだ)くんと夜の世界へ迷いこんださよは、「最初の夜」に、本に出てきた大ねずみのグリクレルと出会う─。児童文学の新たな金字塔を築く、川上弘美、会心の本格長編ファンタジー。

かわかみ・ひろみ●1958年東京都生まれ。94年「神様」で第1回パスカル短篇文学新人賞、96年「蛇を踏む」で第115回芥川賞、99年『神様』で第9回紫式部文学賞、第9回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、2000年『溺レる』で第11回伊藤整文学賞、第39回女流文学賞、01年『センセイの鞄』で第37回谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で第57回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。主な著書に『ニシノユキヒコの恋と冒険』『風花』『どこから行っても遠い町』『神様2011』ほか多数。

朝日新聞出版 上1890円 下1995円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

自分で考えなければならない

とにかく、おもしろかった。上下2巻、あわせて900ページを超えるボリュームだが、もっともっと読んでいたい。何が起こるか、何が現れるかわからない不思議な世界、生き物としての根幹を刺激される食事シーン、そして仄田くんとさよの思索と成長。ファンタジックな冒険物語というと、CGを使いまくった目まぐるしいハリウッド映画を思い浮かべる人も少なくないと思うが、仄田くんとさよは、薄闇の中でじっくり考え、ぽつりぽつりとしゃべる。派手なバトルやアクションではなく、ふたりの思考こそがスリリングなのだ。日常のルールや既成概念が外された、まっさらな“夜の世界”では、一挙手一投足について自分で考えなければならない。弱いほうに傾きがちな心を、自分で支えなくてはならない。二元論に単純化せず、自分の頭で模索しなければならない。そしてこの“自分で考える”ことのみによって、子どもも大人も成長できるのだろう。

関口靖彦本誌編集長。今号では、宇野常寛さんの連載「THE SHOWMUST GO ON」でも『七夜物語』を論じています。時代背景まで踏まえた批評を、ぜひご一読ください

現実との密接感がせつない

舞台設定は1977年。小学4年生であるさよちゃんや仄田くんは、少し下だがほぼ同年代。学校の図書室の描写など、すごく懐かしく読んだ。両親の離婚を経験した二人は、母や祖母の愛情に包まれながらもある種の寂しさを日常に感じており、夜、異世界で経験するさまざまな冒険にもそうした現実は深く結びついている。物語はさよちゃんの視点で進み、文章も極めて平易。児童文学であることは間違いないのだが、哲学的な示唆や問い掛けも多く、大人が読んでも考えさせられる表現が多かった。特に「最後の夜」の中で交わされるやりとりは刺激的だ。「傷つくのは、無駄なものを捨てないからだ。役にもたたないものを無駄に思いやったり、どうでもいいもののために悩む気持ち、そういうすっきりしない心が、痛みを感じるんだ」。自分の中の光と影。子どもながらに厳しい戦いにさらされる彼らの健気ながんばりに胸が熱くなる。あの頃の自分に届けたくなる本だった。

稲子美砂取材させていただいた小池真理子さんの『二重生活』がおもしろかった。テーマは尾行! 意外な試みが自分自身の日常にもたらす漣に共感しつつ楽しみました

アニミズムの香り漂う夜の世界

シンプルな文体だけど川上さんならではの文章もさえる。母親のさよに対するセリフの数々だ。「唾棄」を「つばをはくくらい嫌いという意味」と説明するところなど、相手を子どもと思っていない。私もこんな母さんになりたい、と思うのだ。この小説は古今東西の名作ファンタジーのお約束をちりばめながら、1970年代の日本が抱えていた貧しさや暗さ、経済的格差、社会の未熟さなどを子どもを通して浮き彫りにしている。子どもたちは現実世界の中で必ずしも明るく暮らしてはいない。素直すぎるか弱い二人が、子どもらしさを武器に、力を合わせて冒険していく。私は夜の闇を体験すればするほど強くなる二人にエールを送り続けた。とくに仄田くん。実は賢いけれど、要領悪くて素直でどんくさくて、かわいすぎるぞ! かつてキリスト教的世界のファンタジーが光と闇の戦いであっただけに、この物語の闇がひとつではないというメッセージが際立って見える。

岸本亜紀文庫版『ひとり百物語』、『幽』17号絶賛発売中。そしてついに小野不由美さんの『鬼談百景』7月20日発売予定です!

大人の心の隠れ扉を開ける鍵

まず装丁にひとめ惚れ! 読む前から冒険の予感にわくわく。子どもの頃、親に隠れて夜更かししながら読んだ『ナルニア国物語』『はてしない物語』といった児童文学を思い出した。子どもの頃は、いつだって冒険への扉を探していた。押入れに知らない入り口がないか探したし、いつか私もファンタージエンに行くのだと思っていた。私は残念ながら扉を見つけることができなかったが、本書の主人公さよと仄田くんは、図書館で冒険への“鍵”を見つけ、七つの夜へと導かれる。お父さんがいないさよ、お母さんがいない仄田くん。なんとなく家はよそと違うと感じながら日々を過ごしていた二人は、夜の世界での様々な出会いを通して成長していく。彼らの冒険を知るものはいないし、彼らも忘れてしまう。だが子どもたちは、冒険を通して、自らの内に宿る“生きる力”を知る。記憶はなくしても、その体験は大人になった彼らを、いまも奥底から支えてくれている。

服部美穂本誌副編集長。JOJO特集の目玉、荒木先生と日本人クリエイターとの対談・コラボ企画は必見! ほしのゆみ『チワワが家にやってきた♥』3巻7月20日発売!

子供も大人もじっくり味わえる

考え方も行動もまるで違うさよと仄田くん。二人が異世界で出会う不思議なモノや試練は、家庭環境や友達づきあいなど、彼らの現実の問題が投影されている。正直、僕は児童小説を読みまくるような子供ではなかった。だからこそ、これからこの本に触れる子供たちが羨ましい。子供たちが誰にも相談できない、ちっぽけなようで重大な悩みと苦しみをそっと和らげてくれる一冊になるだろう。大人が読んでも十分に楽しめる仕掛けが満載だし、酒井駒子さんの挿絵も素敵。

似田貝大介『幽』17号が発売中。特集「ふるさと怪談」では、スカイツリーに隠された秘密に挑む! 全国各地の怪談事情もまるわかり

七つの夜が教えてくれたこと

1977年という設定が、子どもの頃の記憶を鮮明に呼び起こした。毎日があっという間で、子どもと大人のそれぞれの社会を知りはじめた頃。夜は夜らしく、闇の世界にいろんなものを想像していた。本書は、現実の日々と七つの夜を越えて、少しずつ成長していく、さよと仄田くんの冒険物語だ。大人が失いがちなものを、新しい武器として備え戦っていく二人の勇気に、胸が高鳴り元気をもらった。と同時に、この物語は、大人のための学び直しの本でもあると思った。

重信裕加先月は出張月間。梅雨と台風と国内の寒暖の差で、ずるずると風邪が治らない日々。ニンニク注射を打とうか悩み中……

小学生への読み聞かせに最適!

まず装丁に目を奪われる。そしてページをめくれば、なんて贅沢な酒井駒子さんのイラストの数々。勇敢な女の子とやさしい男の子の七夜の冒険譚を読み進めるのは胸躍る時間だったけど、とにかく、さよちゃんがかわいいのだ。グリクレルの台所で「リンネル」に心躍らせ、「お皿ふき」を楽しそうにしている場面を想像するだけで、笑顔になってしまう。この物語を読んで、さよちゃん、仄田くんと一緒に冒険に出かけてほしい。子どもも大人もドキドキするはずだから。

鎌野静華カルチャー ダ・ヴィンチにお笑いページ追加。第一回目はカンニング竹山さん。うわさの『放送禁止』についてお話伺いました!

かしこく健気なさよが可愛い!

物語の力、物語を自らの裡(うち)に持つことがもたらしてくれる強さ、他の人の物語に想いをめぐらすことの大切さを厚く感じさせてくれる素晴らしい本だったが、何よりさよがかしこく健気で可愛い! 機会にめぐまれるお話の中の子供は機転がきいて注意深い、と自らを律するさよ。離婚したお父さんと会うところが好きだ。「父の方から手をつないでくれないのなら、自分からつなげばいい」。境遇に不満を垂れるのではなく自ら行動する。小4の少女に教わることが沢山ありました。

岩橋真実『幽』連載「短歌百物語」をまとめた『うたう百物語』、8月3日発売で準備中。帯文は穂村弘さんと道尾秀介さん。ぜひご予約を

大切な人に読んでほしい

子どもには2つの異界がある。作為が支配する大人の世界と、闇が支配する夜の世界だ。『七夜物語』の主人公・さよと仄田は「七つの夜の物語」を体験する。夜の世界で起きたことは彼らの血肉となり、理性を育んでいく。ここに3つの世界は交わり、崩れゆく世界のバランスが行き着く先をこの作品は丁寧に描き切っている。ファンタジーの王道であり、子ども目線で語られる世界は示唆に富む。物語の力を信じるすべての読者に読んでほしい児童文学の傑作であろう。

川戸崇央JOJO特集を担当。荒木さんのパワーをより多くの方に伝えるべく企画を考えました。JOJO初心者にぜひ読んでほしい!

大人こそ読みたい児童文学

日常生活を送る中で、無意識にまたは意識的に真意から目をそらしたり、蓋をしている部分が多分にある。それを丁寧にひとつひとつ提示されて、直視させられた作品。印象的だったのが第4章。一転して権力と地位を得た仄田くんは居丈高となり、にごった影ができる。彼は「自分が今とてもあぶないはめにおちいりつつあるということ」に気付くが、現実社会ではそれに気付かない大人は山ほどいる。毎日を過ごす上での純粋な理性を取り戻させてくれる一冊だ。

村井有紀子鈴井貴之さんとTEAMNACSの皆様に頂いた、前編集長の送別会用メッセージは暴露話と爆笑の嵐! 温かなご厚意に感謝です

忘れていた大人になるきっかけ

気がつけば、いつの間にか「大人」になっていた。子どもの頃知らなかった、理解できなかったことも自然とわかっていた。でも、いつから? きっかけはすっかり忘れてしまった。本書は夜の冒険を通して、その「きっかけ」を美しく、幻想的に表現する。言葉を話すねずみ、心地好すぎて眠くなる館、自分が生まれる前の両親……夜の世界はゆっくり、大人になるためのヒントを与えてくれる。自分を形作ってきたものを、夢見心地に、じっくり振り返りたい人におすすめ。

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