本格ミステリへの愛と自虐に満ちた、古典部シリーズ第2弾!

小説・エッセイ

公開日:2012/7/7

愚者のエンドロール

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:米澤穂信 価格:546円

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神山高校古典部の千反田えるは、同じ部員の折木奉太郎、福部里志、伊原摩耶花を誘って、2年F組制作のビデオ映画を観に行った。文化祭で公開予定の、密室殺人をモチーフにしたミステリー映画だ。ところがこの映画は未完。脚本を担当した生徒が途中で倒れてしまったのだという。2年F組の〈女帝〉こと入須は古典部員たちに、この映画の真相を推理して欲しいと頼むが──。

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古典部シリーズ第2弾はミステリマニアの大好物、「推理合戦」モノだ。問題編だけ撮られたミステリー映画を観て、ああでもないこうでもないと議論百出。著者もあとがきで書いてる通り、バークリーの有名なミステリー小説『毒入りチョコレート事件』方式である。複数の人物が同じ謎に取り組み、一見、論理的には正しそうな解釈が述べられ、しかしそれも論理的に否定され、そして最後には──というパターン。推理好きの読者にとっては実にわくわくする構成だ。

しかし読みどころは推理だけじゃない。古典部員たちが「事情聴取」する2年F組の面々に要注目。2人目の男子生徒はミステリマニアで、オタクが陥りがちな陥穽をカリカチュアして描かれており、身に覚えのあるマニアは「あいたたたた」と苦笑い必至。そして一転、3人目の女子生徒は、ミステリーと言えばオカルトのことでしょってな認識(たぶんこれが世間一般の認識)で、古典部員からの「で、でも先輩。密室はどうなるんです。鍵がかかってたのは」という質問に対し、日本ミステリ史に残したいほどの名言で返す。曰く「別にいいじゃない、鍵ぐらい」……この一言の破壊力たるや! 「別にいいじゃない、鍵ぐらい」!!

つまり本書はキャラの立ったヤングアダルト小説であり(レギュラー人物の個性については『氷菓』のレビューを参照のこと)、古式ゆかしい様式にのっとった本格ミステリであると同時に、本格ミステリの構造そのものを茶化すという作品なのである。自虐ギャグと言ってもいい。このスタンスは著者の後の名作『インシテミル』に引き継がれるわけだが、大事なのは、決して本格ミステリの過剰なパズル性を否定しているわけではなく、そういうものをすべて踏まえた上で本格ミステリを隅々まで楽しもう、隅々まで遊ぼうという、ジャンルへの愛に満ちているという点だ。その証拠に、最終的に提示される真相は、これぞザ・本格!というシロモノ。だから本格ミステリマニアが読んでも気持ちがいい作品になっている。

それにしても「別にいいじゃない、鍵ぐらい」は至言だ。シリーズ第1作『氷菓』のレビューにも書いたが、こういう名言が頻出するのが米澤穂信作品の魅力のひとつ。なのにマーカー機能やしおり機能がないのはつくづく残念だ。BOOK☆WALKERさんには、できるだけ早いマーカー&しおり機能の開発を心からお願いしたい!


本格ミステリと言えば、やはり密室! そして見取り図!

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