新入り妃の意外な夜の役目は?『後宮妃の隠しごと~夜を守る龍の妃~』残酷にして華麗なる後宮ファンタジー開幕!

文芸・カルチャー

公開日:2020/11/14

後宮妃の隠しごと~夜を守る龍の妃~
『後宮妃の隠しごと~夜を守る龍の妃~』(硝子町玻璃:著、白谷ゆう:絵/一迅社)

 皇帝が妃嬪たちと暮らす「後宮」を舞台に、龍の力をもった玲華(レイファ)の戦いを描く物語。それが『後宮妃の隠しごと~夜を守る龍の妃~』(硝子町玻璃:著、白谷ゆう:絵/一迅社)である。

 後宮は、その国の女にとって最も高貴でおぞましい魔性が跋扈する檻…。見かけは美しく華やかだが、その裏には欲と権謀と人の情念がうずまく世界だ。

 本作は小説投稿サイト「小説家になろう」発の作品や、コミカライズもされた『出雲のあやかしホテルに就職します』(双葉社)で知られる著者・硝子町玻璃氏の最新刊。また白谷ゆう氏の美しいイラストにも注目だ。メインキャラクターのほとんどは表紙と、折り込みのカラーイラストで紹介されており、華麗な世界観をイメージさせる手助けになっている。

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秘密の“夜の役目”を果たすためにやってきた抜け殻? の妃

 大国、凛(リン)。国は7頭存在する「龍神」によって隆盛を極めており、その皇帝は代々、龍神の中で最も位が高い「凛龍」の加護と力を身につけていた。

 そんな凛の後宮には、他の龍神の加護を授かった妃嬪(ひひん)がおり、四龍妃と呼ばれて強い権力をもっている。現皇帝のもとにはすでに3人の龍妃がいたが、ある日、皇帝の妹君、銀露(インルー)公主から四龍妃最後の一人が紹介される。それが冥龍の加護を受けた玲華だった。

 玲華もまた他の龍妃と同様に周囲がうらやむ美しさをもってはいたが、抜け殻のように微笑むばかり。実は何者かに自分の家族を惨殺され、心が壊れていた(とされていた)のだ。

「龍妃とはいえ何故こんな状態の妃を四龍妃に?」「妃としての役目を果たさない」「役立たずな置物の妃」などと彼女は陰口を言われ、疎まれる。

 しかし玲華は、人知れず“夜の役目”を果たしていた。

 後宮には、夜に現れる正体不明の化け物、厄(ウア)が人を喰らう、という言い伝えがあり、実際に女官が消えるという事件も発生していた。ある夜、その厄を退けたのが、仮面で顔を隠した黒衣の剣士だった。その時に口にしたのが以下の言葉である。

人の闇より出でし厄よ、
冥龍の裁きを受けるがよい

 仮面の剣士の正体は玲華だった。冥龍の加護を受けた者は、後宮を護る役割があったのだ。

 現場に居合わせた者は、彼女の力により記憶を消された。だが後宮に入ったばかりの警護兵・蒼燕(ソウエン)だけは“ある理由”により見聞きした全てを覚えていて…。そして、玲華の秘密も知ることとなる。

 ほどなくして、後宮から蒼燕は去り、蒼鈴(ソウリン)という名の侍女が玲華のもとへやってきた。

 これは密やかに国を護る、冥龍に加護を受けた後宮妃の物語だ。

描かれるのは後宮の人間たちの愛憎劇と、国を揺るがす「隠しごと」

 本作は魔法のような龍神の力と、鮮やかな剣技の描写も楽しめるバトルファンタジーだ。加えて「隠しごと」だらけのミステリアスな面も魅力である。凛の後宮にいる人間たちは、大なり小なり秘密を抱え、謎の中にいる。

 主人公・玲華もただその役割を隠しているだけではない。蒼鈴が後宮にやってきたのにも、特別な理由があった。“彼女”もまた、特別な力を与えられていたのだ。

 さらに四龍妃の火蘭(フォラン)と瑠流(リュリュ)の秘めた思い。そして現皇帝・陽金(ヤンジン)の、国家を揺るがすような大いなる秘密…。

 愛と憎悪と戦いと「隠しごと」を描いた中華後宮ファンタジー、美しく人間味あふれるキャラクターたちにも注目して読んでみてほしい。

文=古林恭