東京で絶望しながら年収100万円で必死に生きる、16人の証言から見えてくるものは?

社会

公開日:2020/11/17

年収100万円で生きる 格差都市・東京の肉声
『年収100万円で生きる 格差都市・東京の肉声』(吉川ばんび/扶桑社)

 厚生労働者が2015年に行った「国民生活基礎調査」では、日本の相対的貧困率は15.7%、つまり、日本国民の6人に1人が「相対的貧困状態」にあるという。08年のリーマン・ショックによる世界的金融危機、2011年の東日本大震災もあり、さらには追い打ちをかけるように新型コロナウイルスが蔓延し、貧困層は窮地に立たされている。

 吉川ばんび『年収100万円で生きる 格差都市・東京の肉声』(扶桑社)は、年間100万円前後の収入で生活する16人の証言から成り、「下流」とされる彼らの苦境を炙り出す。厳しい格差社会を生きる彼らは、深刻な精神疾患を抱えていたり、親から暴力を受けていたりと、理不尽な理由で生きづらさを感じている。

 16人の事情はどれも切実だ。社会との接点を見出せずひきこもる中年男性、会社の命令で地方営業所を転々とする社内漂流者、1回3000円で売春を行う五十路風俗嬢、職場で外国人労働者からつまはじきにされる介護労働者等々。

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 こうした下流の生活苦を具体的にイメージするには、今や4000人を超えるというネットカフェ難民が分かりやすいだろう。ネットカフェは、日雇い労働者が身分証明書なしで入れるため、彼らの避難所として機能している。

 だが証言者によれば、彼らの個室はゴミだらけで、夏は小バエが飛び回り、ダニのような虫に刺されるそう。証言者は、「臭いし、いびきはうるさいし、咳き込む人が多くてまるで結核病棟のよう」と言う。

 ネットカフェ以外の場所で急場をしのぐ証言者もいる。足の踏み場もないゴミ屋敷、窮屈な軽自動車の中、荷物を置くべきトランクルーム、不法侵入して住み続ける空き家、24時間営業のマクドナルドなどで、雨風をしのぐのだと彼らは言う。

 一旦下流に追いやられると、そこから這い上がるのは難しい。ハローワークはブラック企業だらけであてにならないし、年配者に提供される案件がない。生活保護の申請をしても、親族の援助を受けられるからとか、まだ家やマイカーがあるからという理由で申請を断られるケースも多い。

 著者の吉川ばんびは、おぞましいほどの貧困や暴力にさらされながら生きてきたという。彼女だからこそ、16人と同じ目線で社会を切り取る本書が書けたのだろう。一方メディアでは、これまで貧困を面白おかしく扱い、好奇の目にさらし続けてきた。性風俗や売春で生活費を稼いでいる女性の貧困は、恰好の「ネタ」になるからだ。メディアは彼女らを、二重、三重に性的搾取しているだけであり、貧困の背景にある問題には触れようとしてない。

 16人の証言に通底するのは、彼らの窮状が個人の努力ではどうにもできなかった、という点に尽きる。東大生の親の平均年収は他大のそれに較べて圧倒的に高いが、社会的環境が生まれつき悪ければ悪いほど、人生の選択肢は狭まり、努力は報われない。「持つ者」と「持たざる者」は生まれた時点で決まっているケースも多々あるのだ。

 コロナの蔓延により、ネットカフェがいち早く営業を中断し、そこを住処にしていた難民たちが路頭に迷ったことはどれほど知られているのだろう。こうした案件こそ、政府や政治家がいち早く対処すべき問題なはずなのだが……。

文=土佐有明