「動物愛護管理法違反で、現行犯逮捕します」虐待や悪質ペット業者と闘う動物警察の物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/11/16

『動物警察24時』(新堂冬樹/光文社)

 なぜ、動物を取り巻く環境はなかなか改善していかないのだろう――ペットライターとしてさまざまな話を聞くたび、よくそう思う。ペットではなく家族だと語る飼い主もいる一方で、小さな命をみだりに傷つけ、金もうけの材料として扱う人はまだ多く、時代の流れに乗った新たな詐欺なども誕生しているのが、ペット業界の現状だ。
 
 だから、『動物警察24時』(新堂冬樹/光文社)を読了し、しみじみ思った。こんな風に、動物がきちんと守られる社会になってほしい…いや、していかなければいけないのだ、と。本作には動物を愛する人々が望む“理想の未来”が描かれている。

動物虐待を許さない「東京アニマルポリス」

 舞台となるのは、東京アニマルポリス。「TAP」と呼ばれるこの機関は、動物愛護相談センターと警察が合体したような組織。実験的な運営ではあるが、TAPには動物事件の捜査権や容疑者の逮捕権が与えられており、警察の協力も得られる。

 TAPは、犯罪者に自供させることだけが仕事ではない。反省を促し、虐待を繰り返さないように改心させることも大切な任務だ。そのため、重大事件でない場合は「説得室」に連行し、改心を促す。二度と動物を虐げないだろうと判断されたら、最後に「宣誓」を動画に撮影。動画を定期的に見るようにすすめ、容疑者に反省の気持ちを忘れないようにしてもらうのだ。

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 一方で、重罪を犯したり、再犯したりした場合は問答無用で警察へ引き渡し、刑事事件として立件する。虐待されていたペットは、強制的に保護し、姉妹団体の動物愛護相談センターへ預け、心身のケアをした後に新しい飼い主を募る。

 このTAPで動物の命を救うために人一倍奮闘しているのが北川璃々。璃々は物言えぬ彼らを守るため同僚や警察、ペット探偵らと協力し、数々の難事件を解決していく。

 そんな中、とあるペットショップが動物虐待を行っているという情報が。だが、オーナーの父親はTAPの存続に関する決定権を持つ、東京都福祉保健局の幹部だった。上司は責任問題となるのを恐れて尻込むが、璃々は勇敢に立ち向かい、虐待の事実を掴もうとする――。

 動物を助けることを常に最優先にして行動する璃々の姿勢は、無鉄砲にも見えるかもしれない。しかし、その描写は、積極的に問題解決に挑まないと動物の命を守ることは難しいというメッセージであるようにも思える。本作に描かれている多頭飼育崩壊や使い捨てされる動物の話は、どれもこの国で実際に起きていること。知れば知るほど、TAPのような公的機関の設立を本気で願いたくなる。

「動物愛護管理法違反で、現行犯逮捕します」璃々が放つこの一言を、現実社会で聞ける日が早く来てほしい。

歪んだ愛情が引き起こす「無自覚な動物虐待」

 本作には動物に関する知識も多数ちりばめられているので、愛犬や愛猫との関わり方を改めて考えたくもなる。中でも、ハっとさせられたのは、作中で取り上げられる人気俳優による虐待事件。俳優・西宮翔の愛犬がガリガリに痩せていることを知った璃々は虐待を疑い、彼の身辺を探る。

 しかし、いくら聞き込みをしても寄せられるのは、愛犬家だという声ばかり。虐待の事実は見えてこない。それも、そのはず。実は西宮が行っていたのは、歪んだ愛情からの無自覚な虐待だったからだ。

 虐待の線引きは、人によって違う。本人としては愛情を注いでいるつもりでも、実は虐待になっていることもある。こうした無自覚な虐待をなくすには、ただ罰するのではなく、飼い主の想いを聞き入れながら客観的かつ専門的に正しい飼育法をアドバイスしたり、動物の特性を教えてくれたりするTAPのような存在が必要だ。正しい知識を持つことは、悲しい思いをする動物を減らすことに必ず繋がるはずだ。

 以前筆者は、壁で爪とぎをするからという理由で保健所に連れて行かれた猫の話を耳にし、衝撃を受けたことがあった。これは極端な例だが、私たちは動物を迎える時、思い描いた“勝手な理想像”を彼らに押し付けてしまうこともあるのではないだろうか。

 けれど、子育ても決して理想通りにいかないように、動物との暮らしにも予想外のことはたくさん起こる。だから、迎える前には理想と違う状況があっても責任を持ち、終生飼育ができるかと自分に問いただしてみてほしい。

 動物はアクセサリーではなく、感情を持った生き物。“愛誤”ではなく“愛護”の精神を持ち、命と向き合う人が増えてほしい。そんな祈りを託し、本作を多くの人に強くすすめたい。

文=古川諭香