スポーツ感動の名場面! そこにはいつも、名実況があった。

小説・エッセイ

公開日:2012/7/8

あの実況がすごかった―オリンピック、W杯、野球、世界水泳…。名勝負の陰には、必ず「名実況」があった!

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:伊藤滋之 価格:668円

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ロンドンオリンピック開催間近。これまで幾多もの名場面を生んできたオリンピックだが、現地で生で観たという人は、あまり多くないだろう。私たちの記憶にある名場面の殆どは、テレビ中継が伝えたものだ。そしてそこには、印象的な実況があった。本書は、オリンピックはもちろん、いろんなスポーツの名場面と、アナウンサーによるそのときの実況を紹介した1冊だ。

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本書では章ごとにテーマを分け、それぞれの項目で印象的だった実況を紹介している。第1章のテーマはデビューで、いろいろな大物選手のデビュー時の実況が目白押し。中でも北海道日本ハムファイターズ・斎藤佑樹投手のデビュー戦の実況と、15歳の浅田真央が金メダルをとったフィギュアスケートのGPファイナルでの実況のくだりが印象的だ。

斎藤投手がプロ第1球を投げる直前、アナウンサーはこう言った。「斎藤佑樹、自分でつかんだ、プロ野球の舞台」。また、浅田真央についてはアナウンサーは何度も何度も「15歳」を繰り返した。本書では、どちらもそう表現したのには明確な理由があるというところを解説してくれている。なるほど、と思った。実況を聞いたとき自分がなんとなく感じた疑問にはっきり答えが出たような、実にすっきりと腑に落ちた気分だ。

第2章では箱根駅伝やドーハの悲劇など、想定外の事態に出会ったときの実況の数々を、第3章では心に残る「放送の冒頭に使われた名文句」を、第5章では解説者とのかけあいについて、そして第6章ではサッカーのアジアカップの実況についてそれぞれ紹介しているが、ここは時期的にも、第4章「熱狂のオリンピック」に注目しよう。

バルセロナでの岩崎恭子選手(競泳・平泳ぎ)やソウルでの鈴木大地選手(競泳・背泳)に対する、応援なんだか実況なんだかわからなくなったかのような興奮、原田雅彦選手(スキージャンプ)のリレハンメルから長野へと続くドラマなど、「ああ、あったあった」と懐かしく思い返すものばかりだが、中からふたつ。アテネオリンピックの体操団体、日本が優勝を決めた瞬間の「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」という有名な名文句、そしてトリノオリンピックの荒川静香選手(フィキュアスケート・女子シングル)のフリー演技の後半2分15秒の間、一言も発しなかったという無言の実況。この2項目についての解説は実に読ませる。

その2つの実況を担当したのはどちらもNHKの刈屋富士雄アナウンサーだが、「ほぼ日刊イトイ新聞」に載っているインタビュー(http://www.1101.com/kariya/)と合わせて読むと、さらに興味深い。そのインタビューで刈谷さんは、「スポーツの中継というのは、どんな名ゼリフであろうと言葉だけで成立するというケースはないんですね。その瞬間の映像とか、その勝負のすごさとかと重なって初めてインパクトを持つもの」と語っている。

まもなく始まるロンドンオリンピック、「うまい!」と思う実況がまた生まれるだろう。けれどそれは、そんな実況が出るだけの場面やプレイがあってこそなのだ。メダルの色や数だけでなく、多くの名文句を生むような名場面が数多く観られることを期待したい。


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