159センチのバレーボール選手が世界最強セッターになった理由

公開日:2012/7/8

竹下佳江 短所を武器とせよ―世界最小最強セッター

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:吉井妙子 価格:1,123円

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ロンドンオリンピックで20年ぶりのメダルを目指すバレーボール女子。その中心にいるのが、身長159センチの小さなセッター、竹下佳江だ。高さがものをいうバレーボールという競技で、彼女はひときわ小さい。竹下が前衛にいるときは、確実にそこにブロックの穴ができる。それでも海外各国の監督は口を揃えて言う。「日本で最も嫌な選手」だと。いまや日本になくてはならない、世界最小にして最強のセッター・竹下佳江。本書は彼女を追ったノンフィクションである。

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まず、竹下となでしこジャパンの澤穂希が親しいと知って驚いた。しかし読み進むうちに腑に落ちる。このふたりには大きな共通点があるのだ。リーダーとして代表チームを精神的にも技術的にも引っ張る立場であること。そして澤は性別ゆえに、竹下は身長ゆえに、それぞれの競技から「はじかれた」「否定された」経験を持つこと。性別や身長といった、自分の努力ではどうしようもないことを理由に否定されるという経験が、その後の2人を作ったのだ。

彼女無しでは日本バレーは立ち行かないとまで言われる竹下だが、12年前、女子バレーがシドニーオリンピック出場を逃したときには、「戦犯」にされた。あんな背の低い選手を入れるから負けたのだ、と。1964年の東京オリンピックで金メダルをとった東洋の魔女以来、連綿と続いてきた日本女子バレーの歴史を途絶えさせてしまった、その主たる原因が自分である(とされた)ことに、責任感の強い竹下は耐えきれず、バレーをやめて故郷の福岡に帰ってしまう。

そんな竹下にカムバックを促したJTマーヴェラスの監督、竹下のトスが打ちたいとJTに移籍した他のチームのアタッカーたち、協会の反対を押し切って竹下を代表メンバーに招集した柳本前代表監督、そして徹底したデータ主義で竹下に新境地を与えた真鍋代表監督など、さまざまな人との出会いを経るうちに、竹下は自分がやるべきことを掴んでいく。小さいがゆえのスピードと天性のセンスで、竹下でなければできない技術を次々会得していく様には、スポーツ好きなら興奮せずにはいられないだろう。

セッターは司令塔だ。彼女はすべてのアタッカーのアタック練習につきあい、その癖を見極め、試合に活かして行く。同時に、自分がこのまま代表にいると、次代の大型セッターが育たないと考える冷静な目も持っている。「試合に勝てばアタッカーの活躍、負けたらセッターである自分の責任」と明言する竹下は、理想のリーダー像とも言えるのではないか。いつか指導者として、自分より20センチ以上大きい選手たちを鍛える竹下が見てみたいものだ。

最後に、本書は決して「逆境に負けず頑張ったお涙頂戴の感動路線」ではないことをはっきり書いておく。バレーボールというスポーツの技術的奥深さ(ボールの黄色い面がレシーバーの目に入るようにサーブを打つなんていう技術を彼女たちは持っているのだ!)を理論的に紹介し、日本バレーボールが持つ構造的な問題点をしっかり取り上げた硬派なノンフィクションである。スポーツ好きやバレーボールファンならぜひ読んでおきたい。そしてもちろん、自分にはどうしようもないことで悩んでいる人にも。


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