みんなから愛されている、コンプレックスを抱える狐っ子が可愛すぎる!『甘々と稲妻』雨隠ギド先生最新作!

マンガ

公開日:2020/11/21

ゆらゆらQ
『ゆらゆらQ』(雨隠ギド/白泉社)

「自分がどうありたいか」を明確にするのは、大人になっても中々難しい。某映画につられて「ありのままの姿を見せる」ことが大切だと思っていても、しばらく経てば「やっぱりもっとキレイになりたい…。ダイエットもして自信が持てるようにもなりたいし、それに何よりコミュニケーション能力があった方が、仕事も仲間も増えるような気がする…」と、突然、ストイックに努力を始める時期が来ることもある。自分で自分のことを深く知り、客観的に見ることは意外と難しい。結局、行動と失敗をたくさん繰り返した末に、ようやく少しずつ見えてくるものなのだろうか…と考える日々である。

『甘々と稲妻』(講談社)で心も体も温まる料理と、こまやかで柔らかな人間模様を描き、多くの読者を虜にした雨隠ギド先生の最新作『ゆらゆらQ』(白泉社)は、コンプレックスや迷いを抱えながらも、夢を追う可愛い狐っ子のマンガだ。

 本作の主人公は、神社の神主である父と、神使の狐である母から生まれた9人兄妹の末っ子で、女子高生のきゅーこ。彼女には、美しくて優秀な8人の兄姉がいるのだが、きゅーこだけは背が小さく、ころっと丸くて可愛いフォルムだったので、そのことに悩んでいた。そんなある日、きゅーこは学校で、狐っ子なのにもかかわらず「たぬきそっくり」と言われてしまい、ひどく落ち込んでしまう。

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 だがその瞬間、狐が持つ化け力の一つで、人に幻を見せて虜にする“魅力(チャーム)”という不思議な力が使えるようになり、スタイル抜群の美女へと変貌…! 周囲をあっという間に魅了する。ただなぜか、きゅーこの家の事情を知る、幼馴染のイケメン男子高生・春人にだけはこの力が通用しない。彼はどうやらきゅーこのことが好きなようで、「お前の魅力はもうわかってる」と真剣に伝えるのだが、きゅーこは春人の思いに気づかぬままで――!?

 本作は、前作の『甘々と稲妻』に引き続き、胸がキュンとするほど愛くるしい登場人物が、とてもチャーミングに、コメディタッチで描かれている。きゅーこは、まだ“魅力(チャーム)”の力が完璧には使いこなせないものの、才色兼備の兄姉たちに、目に入れても痛くないほど愛されており、彼女が家族と揉めて「家出する!」と宣言した時は、家出の準備も兄姉が手伝い、家出先まで把握していたのは笑ってしまった。また、幼馴染の春人にもいつも助けられており「今のままで十分」だと言われているきゅーこ。だが、今より素敵な女性になりたい! という気持ちも捨てきれず、ゆらゆら悩みながら、今のままのありのままの自分でいるか、魅力(チャーム)の力で兄姉みたいな自分でいるか決めかねていた。

 だけど、きゅーこの周りにいる人は、みんなどんなきゅーこのことも、魂から大好きなのだ。きゅーこ自身もいつもさり気なく周囲を勇気づけており、本作は優しさの連鎖が止まらず、読み終わる時はすっかり心が温かくなっていた。結局、どんな自分であろうと、周囲に愛され、また自分も人を愛することができれば、とても幸せな人生を送れるのかもしれない。

 どちらの自分でいるべきか、ゆらゆら揺れるきゅーこに共感しながらも、そんな思いも抱いたとても素敵なマンガだった。

文=さゆ