『HGに恋するふたり』が3人に? モビルスーツ愛を取り戻すOLとガンプラ女子たちの姿が泣ける!

マンガ

更新日:2022/5/24

HGに恋するふたり
『HGに恋するふたり』(工藤マコト:漫画、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)

 人類が社会現象にもなった“ガンプラ”を作るようになって既に40年。西暦2020年、ガンプラ好き女性を描いたマンガが単行本化された。

 それが『月刊ガンダムエース』で特異な存在感を放つ『HGに恋するふたり』(工藤マコト:漫画、矢立肇・富野由悠季:原案/KADOKAWA)である。2020年3月に発売された1巻に続き、10月に2巻が発売になった。この機会に、累計12万部超え(※)という大ヒットとなっている本作を、改めて紹介したい。

※電子版含む、2020年10月31日時点

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否定しないでくれるガンプラ仲間、増える

 14歳の時に『機動戦士ガンダムSEED』をみた神崎さやかは、炎と煙の中、立ち上がる白い巨体、すなわちディアクティブモードの「ストライクガンダム」に魅せられる。

 そこからMS(モビルスーツ)萌えに目覚めたものの、ガンプラを作りたいという気持ちを抑え込み、気がつけば社会人に。そしてデキるビジネスパーソンにはなったが、仕事以外何もない30歳となっていた…。ある日、ガンプラ好きの女子高校生・高宮宇宙(そら)との偶然の出会いが彼女の運命を変える。

 そして2巻では、SNSで凄腕ガンプラモデラーとして知られる「MOMO」こと桃香が本格的に登場する。

 桃香はある理由から、親や周囲に内緒でガンプラを作っていた。彼女と知り合ったさやかと宇宙は、目の前で親バレする桃香を目の当たりにする。モヤモヤしながらも、さやかが「みんなが宇宙ちゃんのようには…ね」と言うと、家が模型店で、ガンプラ好きを公言してはばからない宇宙はこう言うのだ。

神崎さんにとってガンプラ好きって事は恥ずかしい事なんですか?
ほんとに大切な事って「しょうがない」じゃ割り切れないもんなんじゃないんですかっ

 ここから神崎が“The主人公”として体を(心も)張る…。その内容は単行本で確かめてみてほしい。笑ってしまう人も多いと思うが、自分は笑いつつも、泣けた。

 オタクに限らず「好きな事」を否定された経験がある人なら、共感できるだろうと思う。

 単行本1巻時、宇宙と出会った時には、ガンダムというかガンプラ好きな大人になっている自分を卑下するような思いを抱えていた神崎。

私みたいな大人にならないようにちゃんと諭してあげないと
女の子がこんなもの好きになっても何の得にもならない
ここは一女性として大人として

と、宇宙に語ろうとしていた、が…。

――だめだ
大人になっても好きなものには逆らえない

 結局どんどん「好き」を取り戻していくヒロイン。ときおり横にシン・アスカが立ち、さやかを導いていく(個人的に、この演出好みです)。

 圧倒的な「SEED」シリーズへの知識と愛を、とめどなく語る(早口で)ようになるアラサーOL、天真爛漫な模型少女、そしてツンデレな凄腕モデラー。こうして「わかりあえた」ニュータイプ、もとい「HGに恋する女子」はふたりから3人になるのだ。

そうだ、ガンプラ作ろう

 作者の工藤マコト氏もまた、女子モデラーである。もちろん趣味を公言してはばからないし、今どきSNSで「好き」を語るオタクに男女差はないと感じている。

 ただいろいろな事情で「趣味を隠さざるをえない」オタクもまだたくさんいるのは間違いない。SNS上で彼らの多くは「MOMO」のように匿名だからだ。「好きなものを好きと」いつでもどこでも誰にでも、言える世界になっているわけではない。たとえ年齢が離れていても、仲間ができた神崎は幸せなのである。

 さて本稿のライターも、たまたま5歳になる息子がガンダムに興味をもったため、30年ぶりぐらいにニッパーだけ買い、ガンプラ制作を行っている。『HGに恋するふたり』では複数人でプラモを作る話がたびたび出るけど今はフツーなのか…とか、小学生でおもちゃ屋に朝から並んでズゴック買ったな…とか、考えながらぼんやり作業をしていたら、小さいパーツがピョーンと飛んで消えた。

ちゃんとパーツをもって切れって言ったでしょ!?

 頭の中で桃香のセリフが響き渡りました…うちのHGストライクの肩パーツは紛失したままです…トホホ。

 ストライク、インパルスに続き、神崎さやかが次に作るのは「赤いMS」だという事だ。ザク、サザビー、シナンジュ、イージス…果たして? これからの展開に期待せざるをえない…!

文=古林恭