110年ぶりに復活した地名も? 知っているようで知らない市町村名のロマン

暮らし

公開日:2020/12/11

明治・昭和・平成の大合併で激変した日本地図 市町村名のつくり方
『明治・昭和・平成の大合併で激変した日本地図 市町村名のつくり方』(今尾恵介/日本加除出版)

 政府の統計によれば、2020年11月末時点で全国の市町村数は1718(※1)に及ぶという。自宅の住所や役所名など、市町村を口にすることは日常的にあるけれど、意外と自分が生活する市町村の名前に目を向ける機会は少ないかもしれない。

 書籍『明治・昭和・平成の大合併で激変した日本地図 市町村名のつくり方』(今尾恵介/日本加除出版)は、そんな市町村の名前にスポットを当てた1冊。自分がふだんから目にしているさまざまな市町村名の由来などにふれると、思わず「へぇ!」とうなずきたくなってしまう。

土地ごとの雰囲気を意識した地名がブームに

 地名にもブームがある。2000年代前半に目立った「平成の大合併」の流れも受けて、各地で増えたのが「非地名系」で土地ごとの「雰囲気」を重視した地名だったという。

advertisement

 群馬県みどり市はそのひとつで、2006年に県内の勢多郡東村と山田郡大間々町、新田郡笠懸町が合併して誕生した。元々は、桐生市になるはずであったが調整がうまくいかず、二分された桐生市の中央にみどり市が挟まる形になった経緯もある。命名の由来は「みどり豊かな自然のあふれる、美しい街並みの市」で、歴史的な経緯ではなく「日本中どこにでも命名可能な名称」と著者は解説している。

 また、2003年に上村、免田町、岡原村、須恵村、深田村が合併して誕生した熊本県あさぎり町も地域の「雰囲気」を意識した地名。人吉盆地に発生する朝霧が名前の由来で、合併当時に現地の新町名候補選定小委員会が「新鮮さ・清らかさ・自然を表すイメージで好感が持てる」「農産物のブランド名としても売り込める」「若者の支持が多い」などの理由を挙げて、全会一致で決定したという。

人びとを繋ぐ「川」は地名として歓迎される

 平成の大合併では、すでにあった郡名など広い地名をそのまま採用した地域が多かった一方で、各地を繋ぐ「川」が地名に採用されたケースも目立った。

 例えば、中村市と西土佐村が合併して2005年に生まれた四万十市と、窪川町と大正町と十和村の合併により2006年に誕生した四万十町は、たがいに隣り合う関係ながら高知県を流れる四万十川に由来している。

 川の名が新地名として受け入れられるのは、それ自体が「ある程度広い区域」を潤しており、さらに、昔から用水として「お世話になっている」という側面もあるため、周辺に住む人びとから「歓迎されたからではないだろうか」と著者はその背景を考察している。

110年ぶりに地名が復活した福岡県嘉麻市

 合併により新たな歴史を築き始めた市町村がある一方で、平成になってから、古くからの歴史が復活した地域もある。2006年に山田市、嘉穂郡の嘉穂町、碓井町、稲築町の4市町が合併して生まれた福岡県嘉麻市である。

 地名の由来は、古代から存在していた嘉麻郡だった。明治時代の1896年に全国各地で行われた郡の統廃合により一度は消滅していて、当時、嘉麻郡は隣り合っていた西側の穂波郡との合併で、それぞれの頭文字をつないで嘉穂郡という郡名を当てられていた。

 しかし、平成の大合併により約110年ぶりに「嘉麻」の名前が復活。その理由について「たまたま合併する中に嘉穂町があったため、『嘉穂市』とはしにくかった事情もあるのだろう」と著者は推察しているが、いずれにせよ、1世紀以上のときを経て古く使われていた名前が用いられたというのは、ロマンも感じられる。

 これらをはじめ、本書では日本全国各地のさまざまな地名の由来が紹介されている。自分だけではなく、周りの友人や知人などの住んでいる地名のルーツを探ってみるのも楽しみ方のひとつだ。

文=カネコシュウヘイ

※1:総務省ホームページ「本日の市町村数」