社員7000人が2年で英語をマスター? 楽天「社内公用語英語化」への道のり

更新日:2012/7/12

たかが英語!

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:三木谷浩史 価格:864円

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皆さんご存じの「楽天」。その社内公用語がこの7月から英語になりました。ニュースなどで見聞きした方も多いと思います。会議や議事録、仕事の会話も全部英語にする「社内公用語英語化」を同社の三木谷会長が宣言してから、2年あまり。いまだ、その過程にあるということなのですが、英語化に向けた社内の施策、雰囲気作りから、そもそも英語化に思い至った経緯、三木谷氏の考えなどを、濃密にまとめたのがこの『たかが英語!』です。

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「英語、学び直さないとなぁ。でも忙しいしなぁ…」などと挫折ともいえない挫折を、何度も繰り返している私が、本書を読んでまず感じたことは「やればできそうな気がする」というものでした。この気持ちの高なりをどうすべきか。まったくもって単純思考な自分に、ウンザリするわけですが、この夏、ひさしぶりに英語の勉強を再開しようと思った次第です。

さて、同社には7000人以上の日本人が働いているそうですが、その全員に「英語化」を迫るというのも、なんだか酷な感じもしますよね。「いきなり英語と言われても…、そんなつもりで楽天に入社したわけではない!」といった恨み節も聞こえてきそうです。

当の三木谷氏も、元々は日本語だけでじゅうぶんにビジネスをやっていけると思っていたし、外国人の社員に日本語のレッスンを受けるように指示をしていたくらいだったそうです。だがしかし、同社の海外進出を実行に移し、真のグローバル企業になるには、英語によるコミュニケーション能力が不可欠だという結論に至ります。

三木谷氏の基本姿勢は「仮説を立て、実行し、検証した上で、仕組化することが重要で、このプロセスを愚直に続けていけばビジネスは成功する」というもの。社内公用語英語化に関しても、「社内公用語を英語にすれば、社員はみんな英語でコミュニケーションができるようになり、楽天の海外展開を加速させることができる」という仮説をたて、それを実行に移したまでのことだったのです。だから「たかが英語」なんですね。もちろん「されど英語」であり、英語公用語化にいたる苦労なども、本書には書かれています。

その、なぜ全員だったのか?という疑問にはもう少し深い答えが用意されています。役職も部署も関係なく社員全員で英語習得に取り組む理由は、楽天の情報共有文化にあるそうです。楽天では「成功した手法や失敗した事例などを社員全員で共有することで会社としての競争力を上げてきた。人事においても、有用なノウハウを持った社員をグループ各社の中で次々と異動させてきた。幹部からの情報だけでは不十分で、同じレイヤーの社員同士がそれぞれの情報を共有することも必要」といい、それが今後は国境を越えて必要になっていくため、全員に英語が必要になると三木谷氏は考えます。

さらにその具体例として、「エバンジェリスト(伝道師)」と「アンバサダー(大使)」という役職を設けた話を挙げています。

積極的に海外でのM&Aを行う同社にとって、経営統合後はまず海外の子会社に楽天流の経営手法や事業運営手法を定着させることが必要。そのために設けられた役職が「エバンジェリスト(伝道師)」と「アンバサダー(大使)」でした。営業やマーケティング、デザイン、編成などの機能を熟知した専門家が担うエバンジェリストの役割は、自らが各国、各地域にノウハウを伝えにいくというもの。一方のアンバサダーは、特定の地域について深く熟知した専門家で、楽天のノウハウがそのエリアの地域特性に合うのかを判断するという役割を負います。これらの役職についた社員の大半は、もともと英語があまりできなかった人たちでしたが、今では、平然と英語でのコミュニケーションをとっているそうです。英語の共通言語化がなければ、このような展開は実現不可能だったはずだと、三木谷氏は振り返ります。

すべての日本企業が社内公用語を英語にする必要はないでしょうし、実際にその大変さを味わった英語が苦手な楽天社員の方々には同情と敬意を抱かざるを得ません。しかも、英語の次はプログラミング言語(!)が待っているそうで…。

この思い切った「社会実験」が今後どのような結果をもたらすのか。社内公用語英語化に一定の結果が出たあかつきには、同社が蓄積した英語教育のノウハウをオープンにすると三木谷氏は語っており、日本人の英語教育にも新たな活路を見出してくれそうな気もします。


それぞれのグレード(職位)に設定されたTOEICのスコア(グリーンゾーン)をクリアできなければ、昇格できない

2011年の新入社員には、入社するまでにTOEIC650点を獲得しておくように求めていた。入社時に達成できていなかった新入社員は、どの部署にも配属されず、勤務時間中に英語の勉強をしていた

「英語ができない社員はダメな社員」という雰囲気が生まれないように注意を払った

英語化には楽天に買収された海外企業に対して、フェアな環境を作り出す「大義名分」がある

アジア圏のTOEICスコア。日本だけがほとんど変わっていない(というかむしろ低下)

2012年採用の新入社員の平均TOEICスコアは800点以上。2013年の採用では、入社式までに750点をクリアする必要があるそう

楽天イーグルスは英語化の対象外だそうです