殺したはずのDV夫が帰ってきた!? 謎が謎を呼ぶラブ・サスペンス

マンガ

更新日:2020/12/6

私の夫は冷凍庫に眠っている
『私の夫は冷凍庫に眠っている』(八月美咲:原作、高良百:漫画/小学館)

 人気小説サイト『エブリスタ』には、斬新な発想を盛り込んだ魅力的な作品が数多く並んでいる。その中でも読者のド肝を抜いたのが、八月美咲氏が手掛けた『私の夫は冷凍庫に眠っている』だ。タイトルからして衝撃的な本作は、殺したはずの夫がなぜか死んでいない…という、謎が謎を呼ぶラブ・サスペンス。

 そんな人気作がこの度、高良百氏によって漫画化され、『私の夫は冷凍庫に眠っている』(八月美咲:原作、高良百:漫画/小学館)として発刊。多くの読者を戦慄の世界へいざなっている。

DV夫を殺したはずだったのに…

 結婚4年目の夏奈は夫・亮から暴力を受けており、心身ともに限界な状態。苦しい生活から逃れるため、ある夏の日、心療内科で処方された睡眠薬で亮を眠らせ、電気コードで絞殺してしまう。腐乱臭によって殺害がバレないよう、遺体は物置にあった業務用の冷凍庫へ。「夫のおもちゃ」として扱われてきた日々からようやく解放された夏奈は、自由を噛みしめた。

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 ところが、翌日、不思議なことが起こる。なんと、殺したはずの夫がいつも通り、家に帰ってきたのだ。まさか、生き返ったのだろうか…。不安になり冷凍庫を確認するも、遺体は消えてはいなかった。

 だとしたら、他人が整形して夫になりすましているのかも…。そうも考えたが、2人目の亮は自分たちにしか分からない情報を知っており、癖も同じ。本人だと確信した夏奈は2人目の亮も殺すしかないと思い始める。

 そんな気持ちなど知らず亮は、肉体関係を求めてくるように。殺すほど憎い相手に抱かれるという苦しみは夏奈の中でより一層の憎悪へと変化。その結果、2人目の亮に、とある恐ろしい復讐を実行し始めた。

 だが、復讐をしているうちに心には罪悪感が。なぜなら、2人目の亮は以前とはまるで別人のようで、出会った頃のように優しく、仕事へも真面目に行き、家事も率先して行ってくれるから。夏奈は徐々に複雑な気持ちを抱くようになる。

“今はこんなだが、すぐにデーモン亮に豹変するに決まっている。決まっているのに… どうしてデーモン亮にならないの。そろそろなってもいい頃でしょう。そうじゃないと困る。”

 こうした丁寧な心理描写があるため、本作は多くの読者の心を掴んだのかもしれない。DVという呪縛から逃れられた時の喜びや夫が死んでいなかった時の絶望感、そして2人目の亮への罪悪感など、さまざまな感情に触れると、夏奈というひとりの女性の人生がどうなってしまうのか、この目で見届けたくなる。

 また、殺した夫が死んでいないという摩訶不思議な展開なのに、なぜかすんなりとその世界観に入り込めてしまうのは、本作の凄さ。ジェットコースターのように二転三転するストーリーからたちまち目が離せなくなってしまう。

 自分を長年苦しめてきたDV夫を殺害することで呪縛から逃れたはずだったのに、予想外の方向へ転がってしまった夏奈の人生。彼女が進んだ道の先には、一体どんな未来が待ち受けているのだろうか。そして2人目の亮は何者で、なんのために現れたのか…。ぜひ原作もチェックしつつ、背筋をゾクっとさせてみてほしい。

文=古川諭香