発達障害のある息子が反抗期に! 体当たりで向き合う漫画家ママの子育てエッセイ『うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!』

出産・子育て

更新日:2020/12/16

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!
『うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!』(かなしろにゃんこ。:著、田中康雄:監修/講談社)

 子育てはしんどい。わが子は愛おしいが、ときに過酷なものである。小さい頃は育児に奔走し、小学校高学年以降になると今度は反抗期が始まる。そのときの親子の衝突は…まあ…うん…誰もが経験したように過激だ。家庭内戦争みたいなものである。

 ただでさえ大変な反抗期。それに加えて、もしわが子に発達障害があったら…日常はどんなものになるだろう?

 漫画家のかなしろにゃんこ。さんには、息子のリュウ太くんがいる。リュウ太くんは、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の特性があるADHDと、対人関係やコミュニケーションが苦手で強いこだわりがあるとされる軽い自閉スペクトラム症(ASD)があった。

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うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.3

 前著『漫画家ママの うちの子はADHD』では、リュウ太くんが小学3年生になるまでの子育てが描かれた。

 続編となる『うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!』(かなしろにゃんこ。:著、田中康雄:監修/講談社)では、リュウ太くんは小学校を卒業して、中学校へ進学。大人に近づくことで問題児ぶりも少しは治まるかと思えば、残念ながら親の苦労はどんどん増えていった。

 たとえば発達障害の告知。年齢的にそろそろリュウ太くんに伝えなければいけないのだけど…いつがいいだろう?

 保育園時代から問題児のリュウ太くん。小学校高学年になって、それは治まるどころか悪化! おかげで同級生の親から「子どもが荒れている=かなしろ家は育児放棄の状態に違いない」と誤解されてしまう…。言わずもがな愛情こめて育てているからこそ、かなしろさんは心を強く痛めた。

 このほか遊ぶお金欲しさに親の財布から現金を抜き取る事件が勃発したり、大ピンチな成績を改善すべく塾に通わせたがサボり気味で困ったり、問題が湯水のごとくどんどんわいて降ってきた。

 かなしろさんは、ひとつひとつに対応を余儀なくされ、常にいっぱいいっぱい。そんな日常が続いて、とうとうかなしろさんは…?

怒りが頂点にくると毒親の私が現れます

 保育園時代からケンカをすることが多かったリュウ太くん。小学4年生になると、学校や塾での不協和が一層目立ち始める。友達とのケンカで不満を募らせ、家に帰って「もうっ学校やだっ行きたくない!」と大声でグチをぶちまける。それだけでなく勉強道具や家具に八つ当たりする始末。

 中学に進学すると言葉遣いがいよいよ悪化。いわゆる反抗期に突入した。リュウ太くんは発達障害の影響もあり、一度やろうと決めると、時間と場所を選ばず行動してしまう。あるときかなしろさんが「夜中に部屋の片づけをするのは近所迷惑だ」と注意。すると…「うるせーんだよっ」と、いかにも反抗期ボーイらしいセリフで応酬!こうした日常に、かなしろさんの堪忍袋は限界まで膨れあがっていた…。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.53

 そしてある真冬の凍えるような寒い深夜のこと。とうとうコトが起きた。このときリュウ太くんは、騒音を気にせず大音量で音楽を聴いていた。もちろん注意するが、例によって逆ギレ。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.55

 数々の反抗に耐え、問題に対処してきた優しい母親が、ついに爆発した。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.57

 なんと! バケツに水を入れて、息子にブッかけたのだ! 寒さに震えあがる2人。スマホもびしょ濡れだ。あまりのことに驚いたリュウ太くんは、反抗的な態度から一転、「ご…ごめん、もう寝るよ」と負けを認めた。しかし!

いいよ起きてろ
お前の布団は捨てっから
このまま風邪をひいて死んじまえっ

 かなしろさんの堪忍袋は、跡形もなく飛び散っていた。そして残ったのは怒りに震える、かなしろさんらしき、なにかだった…。本書では当時のことを、こう振り返る。

愛するわが子でも
怒りが頂点にくると
憎しみが生まれ
苦しませて
やりたいという
毒親の私が現れます

 かなりハードなエピソードだが、これを虐待と見る人がいるだろうか。しつけの失敗と考える人がいるだろうか。うーん、私は違うと思う。むしろ「家族」という言葉が自然に浮かんだ。ともに生きて、ともに失敗して、ともに笑って泣いて…。家族だからこそ本音で不器用にぶつかり合える。

 これが毎日だと大問題だ。けれども母親だって完璧じゃない。穏やかではいられないときもある。だからこんな日があることこそ、家族の証なのではないかと思うのだ。

パンパンに太った学校のカバンとリュウ太くんの成長

 本書で「なるほど!」と膝を打った場面がある。リュウ太くんにはADHDがあるので、持ち物の整理が苦手。部屋が散らかり放題で、よく物をなくす。あるときも「問題集が見つかんねーよ」といきり立っていた。こんなときかなしろさんが手伝おうとすると余計にキレる。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.71

 先生への提出物もなくしているので、内申書に影響しないか心配だ。しかし唯一の解決手段が、リュウ太くんに干渉して部屋を整理すること。できれば自分の持ち物くらい管理できるようになってほしい…。かなしろさんは悩んでいた。ところがある朝、驚くべき光景を目にする。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.74

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.75

 学校のカバンがパンパンに太っているではないか! 聞くと、教科書や問題集の一切合切をつめこんだという。

まとめて持てば忘れ物しないし
忘れ物する恐怖が減っていい

 リュウ太くんは小さい頃から、物をなくしたり、忘れ物をしたりしてきた。そのたびに怒られて、自分でも落ち込んでいた。そして、その悩みを解決する手段が、学校のカバンをパンパンに太らせることだったのだ。

 読者は思わず笑ってしまうかもしれない。けれども解決策を自分で見つけ出したことに、かなしろさんは小さな感動を覚えた。自分の「苦手」を客観的に把握して、自分で対策を練ったわけだから、家族にとって大きな進歩だった。

 どれだけ手のかかる子どもでも、少しずつ成長している。親はどうしても口うるさくなる生き物だが、ときには子どもを信じて見守る姿勢も必要だと気づかされる。

進学先はどーするの!?

 物語は進み、ついに中学3年生の7月に突入。進学先をどこにするか、誰もが悩む季節となった。たいていの場合、普通科の高校に進み、大学に進学して、就職するのが、人生の無難なコース。しかしリュウ太くんは、すでに自分らしい人生を思い描いていた。

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.107

 普通科に通ってほしいという声に耳を貸す様子もないので、かなしろさんは仕方なく自動車整備士の専修学校の体験授業に付き合った。すると…?

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.109

うちの子はADHD 反抗期で超たいへん! p.110

 リュウ太くんが自らの意志で、将来の夢を見出したワンシーンに、若者らしい成長の跡が垣間見える。それは同時に、かなしろさんの努力の成果でもあるだろう。

 このあと、一般的な「普通科→四年制大学」という人生設計を強く勧める父親と、リュウ太くんの間にもうひと波乱あるのだが、その顛末は作品を読んでほしい。頑固おやじの不器用な愛情が描かれている。

 本書を読んでいると、かなしろさんは発達障害のある息子のために、特別な教育をしたわけではないんだな、ということがわかる。それと同時に、「どれだけ辛くても、リュウ太くんのためにできることは実践する」という強い意志で、愛情を注ぐ姿を見ることもできる。

 親は子育てで無理をするものだ。しかし背伸びなんて、しなくていい。たとえ子どもが「問題児」に見えても、その子のなかに必ず成長の種が埋まっている。親が子どもに全力で向き合い続けていれば、いつか種は芽を出し、少しずつ成長して、たしかな幹へと、立派に一本立ちしていくのだから。

文=いのうえゆきひろ