2021年にミュージカル上演も決定した少女漫画の名作『ポーの一族』。新エピソードはどんな内容?

マンガ

公開日:2020/12/15

ポーの一族 秘密の花園
『ポーの一族 秘密の花園』(萩尾望都/小学館)

 日本の少女漫画を代表する作品の一つ『ポーの一族』。発表は1972年である。私は生まれていなかった。

 1998年の文庫化がなければ、私たち以降の世代は存在を知らないままだったかもしれない。小学館文庫で全3巻だったがあっという間に読み終えてしまった。斬新だと感じた。人の血を吸って永遠とも言える時を生きる「バンパネラ」の少年エドガーとアラン、そして前半に登場するエドガーの妹メリーベル。彼らが紡ぐ耽美的な世界は「少女漫画は明るい恋愛ものばかり」という先入観を打ち砕いた。そのため2016年に新作『春の夢』が発表されたときは夢のようだった。

『ポーの一族』シリーズの快進撃は40年の時を経ても変わらない。2018年には『春の夢』が『このマンガがすごい! 2018』オンナ編で第2位にランクイン、40年前の旧シリーズ続編にあたる『ユニコーン』も始まった。そして今年は、本作『秘密の花園』が単行本化された。来年はミュージカルの上演も決まっていて、宝塚歌劇団花組のトップスターだった明日海りおさんと、映画やドラマで大活躍中の俳優・千葉雄大さんが出演することになり話題を呼んでいる。

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 読者を魅了し続ける『ポーの一族』だが旧シリーズも新シリーズもエドガーが主人公という点は変わらない。本作『ポーの一族 秘密の花園』(萩尾望都/小学館)の時代は19世紀末だ。長い時を生き、旅を続けるエドガーとアラン。アランが体調を崩して、二人はアーサーという男性のもとに長期滞在することになる。アランは眠り続け、エドガーは思わぬ事態に巻き込まれていく。

“アラン…
やっぱり人間のところに長くいるのはよくない…
どんどん人間に…‥
ひかれてしまう…”

 エドガーもアランももともとは人間だった。だからこそ人に感情移入したり同情したりすることもある。

 ただそれは人の血をもらって生きる彼らには危険なことである。

 70年代から変わらず、エドガーはクールでアランはわがままな性格だ。人間的に描かれることも多いのだが、彼らは驚くほどの冷酷さで人間を殺すことがある。

 エドガーはアランが、アランはエドガーが誰よりも大切な存在である。彼らが人を襲うのは自分、そして大切な存在を守るためだ。その設定があるからこそ、彼らのやさしさも冷酷さも違和感なく読者に伝わる。

 ただ二人の少年の心はよくすれ違う。その理由を考えるときに不可欠なのが、エドガーの最愛の妹メリーベルのことだ。旧シリーズの第1話でメリーベルは消滅した。もともとメリーベルを守るためにバンパネラになったエドガーは、直後に自分の血を与えアランを仲間にする。そんな経緯があるから、アランはずっと自分が「メリーベルの代わり」だと思い続けている。

 エドガーは、アランのことをメリーベルの代わりだから大切にしているわけではない。読者は知っているのにアランはどんなにエドガーと一緒にいてもその思いを拭い去れないのだ。

 新シリーズでは、エドガーが無断で仲間に入れたアランを消滅させたいと願う「ポーの一族」の男も登場する。今後、彼を通して新たなエドガーとアランの繋がりが描かれるかもしれない。

文=若林理央