「楽しむ」ことは、壁を乗り越えるためにきっと必要だ――高校演劇に青春を捧げる生徒たちを描きだす『もういちどスポットライト』

マンガ

更新日:2020/12/16

もういちどスポットライト
『もういちどスポットライト』(沼ちよ子/芳文社)

 大人になるにつれてどうしても、過程よりも結果が大事になってくる。逆にいえば、「どれだけ頑張ったか」「どれだけ楽しかったか」を全力で味わうことができた10代の日々が、いかに尊いものだったか。と、マンガ『もういちどスポットライト』(沼ちよ子/芳文社)を読んで想いを馳せた。

 主人公は高校に入学したばかりのかすみ。補欠ながらも中学時代に精を出していたバレー部に入るつもりだったのが、部活説明会の舞台でスポットライトを浴びる演劇部の姿に惹かれ、入部を決める。ところが部室を訪れた初日、顧問の季平は「高校演劇は嫌い」と宣言。同じく1年の新入部員・斉藤はにこりともせず、望んで入部したはずなのにまるで楽しくなさそう。先輩たちはみんな優しいことが救いだが、演技はおろか腹式呼吸さえままならないかすみは、悩みだらけで前途多難。そんななか、1か月後に迫る文化祭公演でさっそく役を与えられてしまい……。というのが、第1巻のあらすじ。

 文化的ではあるが実は体育会系の演劇部。8月の全国大会に向けて、地区大会→県大会→地方大会と勝ち抜いていかねばならないし、脚本のアレンジも部員が担わなくてはならない。演劇ってこんなに頭脳と体力の両方をつかう部活だったのか……とその実像が知れるのも楽しいのだが、未熟ながらも懸命に役をつかもうとするかすみの奮闘ぶりが、とにかくかわいい。バレー部で培ったのか、思いもよらぬ度胸を披露するところも、読んでいてくすぐったくもいとおしくなる。

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 だがそのバレー部に、どうやら引っかかるところがあるようで。話題に出されると決まって表情を曇らせるかすみは、演劇を通じていったい何を乗り越えようとしているのか気になるところ。くわえて、かたくなに笑わない斉藤がなぜ演劇部に入ったのかも。和気あいあいと過ごす演劇部の面々に、「楽しければいいってもんじゃ(ないだろう)」「舞台の上では一人です。『みんな』とか『楽しい』とかそんなものは助けてくれない」という彼の言葉が胸に響くのは、それが、何か大きな“結果”に敗れてしまった人の言葉に聞こえるからだ。

 演劇部には、怪我で野球をやめざるをえなかった先輩・武田もいて、彼とかすみはともに、昇華しきれなかった思いを越えていく新たな光として演劇を見出している。けれど斉藤は、たぶんちがう。演劇で受けたなにがしかの傷を、演劇に関わり続けることでむりやり塞ごうとしている。そして、「自分の演劇を許せない」とつぶやいていた、顧問の季平もまた。そんな斉藤や季平のやりきれなさを、事情がわからなくても“わかる”大人たちは多いのではないだろうか。

 楽しんでいいのだ、と思う。10代だろうと、大人だろうと。許される限り、“今”を全力で楽しんで、納得できる結果に導く努力をしていけばいいのだ。その過程は、仮に評価につながらなかったとしても、自信を裏付ける成果として積み重なっていく。そんなことを思い、胸を熱くしながら読んだ第1巻。とりあえずラストで起きた大ピンチをかすみがどう切り抜けるのか、今は気になって仕方がない。

文=立花もも