他人のモノサシで悩むことなかれ! 「人生何とかなりそう」だと思える、燃え殻の実体験ベースのお悩み相談

暮らし

公開日:2021/1/9

相談の森
『相談の森』(燃え殻/ネコノス)

 普段はテレビ美術制作会社に勤務している43歳の男性が、ツイッターでのつぶやきのユニークさをきっかけに小説を執筆した。著者のペンネームは燃え殻。2017年に上梓された処女作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)には糸井重里、大根仁、堀江貴文、会田誠、樋口毅宏、二村ヒトシらが惜しみない賛辞を寄せていた。

 その小説は発売からわずか4週で7万7000部を超える異例のベストセラーとなった。2020年7月に発売されたエッセイ集『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)も3万5000部を超えるヒットに。各界で話題となった。

 そんな燃え殻の新著『相談の森』(ネコノス)は、相談者のお悩みに答えた文春オンラインの人気連載「燃え殻さんに聞いてみた。」を書籍化したものだ。人生を左右する局面を迎えた人の重大な悩みから、日常のちっぽけな(しかし本人にとっては切実な)悩みまで掲載。「人生相談すべてに答えを出すものとは考えていない」と述べる著者だが、実体験をベースにした回答は実に深みと説得力がある。

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 そう、実体験がベースになっている。ここが肝要である。誰にも打ち明けられないほど悩んでいるという相談者たちに、著者が「それ、僕もありました」「その程度なら大丈夫」「自分はもっと酷い目にあった」とさらっと答えてみせる。夫が不倫したと相談する女性には、「自分は4度浮気された」と答える。

 さらに「バーでぼったくられました」という男性会社員には、「僕はぼったくられたことが3度あります」と自然体で回答。童貞いじりに耐えられないという男性には、「僕は24歳まで童貞でした」と答える。淡々とした語り口がいいのだ。

 本書の相談に似た境遇にある人にはヒントとなる箇所がたくさんあるはず。もちろん、予想の斜めを行く質問と回答もあり、それはそれで面白い。「女性のおっぱいを揉んでみたい」という相談に、著者は「かつてラブホテルに入る時に女性にビンタされるならわしがあった」ことを打ち明ける。筆者にもよく分からない回答だが、要するにその女性にとっての習慣や慣行や儀式のようなものだったのだろう。たぶん……。

 著者は、回答の際に次のような言い方を避ける。「普通は」「一般的には」「常識的には」「周りの人は」等々。大切なのは、自分がどうしたいか、どう思っているかであり、他者のモノサシで何かを測るべきではない、ということだろう。何が幸せで、不幸せで、どのような環境に身を置くのが心地よいかは、自分なりの尺度で自分が決めるべきだ、と。

 悩みや不安は常に人生に付き添ってくるもので、完全に消しさることはできない。それを前提として書かれた本書に、完璧な回答など当然ない。だが、読者はその中でいちばんマシで、いちばん援用/応用が利きそうな回答を探してみてほしい。ちょっとしたひとことがヒントになり、答えを導出することができるかもしれない。

文=土佐有明

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