『機械じかけのマリー』が次にくる⁉ 表情が乏しいうえ、天才格闘家すぎて“ロボットメイド”のふりをすることになった少女と、人間不信の財閥子息の恋の行方は……?

マンガ

公開日:2020/12/19

機械じかけのマリー
『機械じかけのマリー』(あきもと明希/白泉社)

 恋する2人にいかなる障害を与えるか、は少女マンガにおける課題のひとつだが、「無表情と戦闘能力が人間離れしすぎていてロボットだと信じ込まれる」というのはなかなかに斬新だ。『機械じかけのマリー』(あきもと明希/白泉社)というタイトルを見たときは、てっきりアンドロイドに心が宿っていく的な話かな? と思ったのだが、全然ちがった。

 マリーは正真正銘の人間。ただし幼い頃から周囲に気味悪がられるほど表情が乏しく、天才格闘家ゆえに人より頑丈で痛みに強く、筋骨隆々だから一般的な女性よりも身体は鋼鉄のようにカタくて重量もある、というだけ。……だけ、というレベルではないのはさておき、人並み外れたアビリティを見込まれ、有名財閥の子息・アーサーのもとでロボットメイドとして住み込みで働くことを持ち掛けられる。

 その設定とキャラクターのユニークさが群を抜いているからか、掲載誌『LaLa』の読者アンケートでは常にベスト3入り。ここ十年強でまれに見る人気ぶりを見せているという。

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 まだ学生、しかも愛人の子でありながら跡継ぎに選ばれたアーサーは、常に命を狙われ続けた結果、欲まみれの人間にいやけがさし、心をもたない無機物しか信用しなくなってしまったこじらせ男子。メイドすら部屋に爆弾をしこむ環境で、彼がロボットメイドを所望するのはわからなくもないが、笑えるのは相手が人間じゃないとわかったとたんに見せるデレっぷり。1秒未満の遅刻さえ許さない厳格・冷酷・非情さはどこへやら、マリーにだけはめっぽう優しく、どう考えてもグダグダなロボット設定も、マリーがそうだといえば簡単に信じる天然さを見せるのだ。

 ヒーローらしい場面がないとはいわないが、「この人たぶん、本当は夢見がちなただのオタクなんだろうな……それなのに重圧背負わされて命まで狙われてかわいそうに……」と思わせる素顔を見せることでファンをつかんでいくタイプ。「私といる時だけは年相応の少年のような顔を見せてくれる…お守りしたい…」とマリーがほだされていくように、読者もいつのまにかアーサーの虜にさせられてしまう。

 アーサーはアーサーで、一切の欲望を感じられないマリーのまっすぐな言葉と、どんな危機でも駆けつけ身を挺して守ってくれる凛々しさに惹かれ「機械にガチ恋なんて!」と悩みはじめるのだが、アーサーが心を許しているのはマリーが機械だからだし、彼は「嘘をつく人間」が何よりキライ。ロボットだと嘘をついて働いているマリーが人間だと知れれば、信頼して自分を開示しまくっているぶん、いっそう裏切られたショックは激しいだろう。

 アーサーとともに過ごすことで、これまでになかった感情が育ちはじめるマリーは果たして、秘密を隠しとおすことができるのか? ていうか幼少期、メディアに取り上げられるほど有名な格闘家だったのならそっち方面からバレる可能性もあるのでは? とハラハラしつつ、今しばらくアーサーの純真なおばかっぷりを楽しみたいのが本音である。

文=立花もも