うつ・摂食障害・対人恐怖・強迫性障害…数々の精神疾患を抱え体重90キロのニートが挑んだ“生き延びるための婚活”

恋愛・結婚

公開日:2020/12/20

ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活
『ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活』(石田月美/晶文社)

 結婚を決めた理由は色々あるが、その中に「ひとりでは世の中をサバイブできそうにない」というある種の「甘え」ともとれるものは、確実にあった。当時私はメンタルの不調に加えて、職場も問題が発生して退職。フリーランスライターとしての仕事はあったものの、金銭的にも非常に不安定だったため、親のすねをかじって生きていた。アラサー独身。妹はとっくに自立して働いており、実家も居心地が悪い。さてどうしようか…と考えた末、付き合っていた彼氏に自分から「結婚してほしい」と頼み込んだ。経済的、精神的に自立して、共働きで家庭を支える夫婦が増えた現代、私の結婚した理由は、眉をひそめられるものに違いない。でも私はその時「何とかして生き延びねばならない」とひどく焦燥感に駆られており、必死だった。

 石田月美さんがnoteに投稿していた文章が書籍化された『ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活』(晶文社)。本作は、うつ・摂食障害・対人恐怖・強迫性障害などさまざまな精神疾患を抱え、実家に引きこもり、過食とダイエットを繰り返していた当時27歳・体重90キロのニートだった著者がはじめた「生き延びるための婚活」体験が綴られた1冊だ。「婚活」というプロセスを通じて、“ビョーキ”のまま他者や社会と繋がり、自分と向き合い回復していく過程が描かれる物語編と、その経験から得たスキルとテクニックをありったけ詰め込んだHOW TO編の2本立てで構成されている。

 物語編では、主治医に「結婚すれば?」と軽く提案され、衝撃を受けた著者が、愛や恋ではなく、ただひたすら「生き延びるため」に、時々は寝込みながらも婚活へと突っ走り続ける怒涛の日々が描かれる。婚活すると決めた日から、お見合いパーティーにナンパに逆ナン、プールに太極拳…と引きこもっていた日々が嘘のように、過活動気味に出会いの場へと出で立つ著者。お見合いパーティーで正直な私(ハート)をアピールして惨敗したり、時には既婚者に「喰い逃げ」されたり、失敗も多く、「これでまた区役所に行く理由が『入籍』から『生活保護』になる」と震えることもある。だが、うつには工程が多すぎて苦行となるお風呂にも頑張って入り、社会との接点を着実に増やしていく様子は、胸に迫るものがあった。満身創痍になりながら、「親が実家に私を飼ってくれている間は頑張ろう」と奮闘する著者の詳細な自己開示は、生きづらさを抱える読者に、溢れんばかりの愛や勇気や優しさを注ぎ続けているように思えて仕方がなかった。

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“ビョーキ”のまま、「死にたい気持ち」を抱えたままの婚活だ。この本は、もっと辛い気持ちを曝け出し、悲劇的な文章で綴ることもできたと思う。しかし、後半で、婚活経験から得た戦略的なスキルとテクニックを、同じく病を抱える女子たちに、惜しむことなく心に突き刺さる言葉で伝えていく文章を読んでもわかるように、著者はユーモアにあふれた筆致で、読者にどこまでも優しく語りかける。一体誰が決めたのかわからない世間の常識や理想に阻まれ、傷を負い「助けて」と言いだせない人たちに、目から鱗の大量の情報と共に、したたかに戦略的に“ビョーキのまま”生きる術を伝えてくれるのだ。

 本作は、ウツ女子ではなくとも、何かしら事情を抱えて生きる多くの人の助けとなるに違いない。ひとりの人間として、荷物を抱えたまま、それをアイデンティティとすることなく社会でサバイブする方法をこれでもかというほど、こっそりと教えてくれるのだから。

文=さゆ