SNSの普及が教師を苦しめる! 「ブラック化」を阻止したい教師の仕事

社会

公開日:2020/12/21

いい教師の条件
『いい教師の条件(SB新書)』(諸富祥彦/SBクリエイティブ)

 資源に乏しい日本では、人材が重要だといわれてきた。人を育てる仕事でまず思い浮かべるのは、教師だ。しかし、教師の仕事のブラック化がメディアで取り上げられるなど、労働環境面から教師のなり手は減っている。日本の将来を背負う人材の育成に欠かせない教師の未来を考えることが急務だ。

 20年あまりスクールカウンセラーとして小中高の先生たちと接してきた著者による『いい教師の条件(SB新書)』(諸富祥彦/SBクリエイティブ)は、労働マーケットにおける教師という仕事の価値は実際に下落しつつあることを認めつつ、その原因として次の「四重苦」を挙げている。

(1)多忙化・ブラック化
(2)学級経営、子どもへの対応の困難さ
(3)保護者対応の難しさ
(4)同僚や管理職との人間関係の難しさ

(1)は周知のとおり。本書は、ひとりの教師がこなすには無理のある仕事量、長時間労働を「定額働かせホーダイ」と辛辣に指摘している。(2)は教育関係者ならよく知っていることだが、「発達に偏りがある」「傷つきやすい」「かんしゃくを起こしやすい」などの子どもが増えたといわれており、昔のような一律の指導が難しくなっている。一人ひとりに合った指導、対応が求められるため、教師の高い資質が欠かせない。そして、そのような子どもをもつ親もまた傷つきやすいことが多く、センシティブな対応が求められやすい。ブラックな仕事で疲弊している教師たちは余裕がなく、同僚や管理職との人間関係もギスギスしやすい。こういった四重苦が教師を苦しめ、なり手を減らしている。

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 ところで、(2)(3)(4)は、人間関係の問題であることに気付いただろうか。教師は人との関係の中で行われる仕事なのだ。本書は「人間関係力」こそ、教師にもっとも必要な資質、能力であると言い切っている。

 しかし、ここでSNSの普及とコロナ禍が、さらに教師を苦しめていることが見えてくる。本書は、小学校高学年から中学生の子どもは、ことさら「平等」にこだわることに触れている。この思春期の子どもたちは、「みんな同じ」「私たち同じだよね」と常に確認し合うことで、友達の証としている。集団と違う行動を取ることは容認できないし、特定の子どもを特別扱いする教師のえこひいきは到底、許しがたいのだ。

 教師が「えこひいき」という多感な子どもたちにとっての「不正」を行うと、子どもたちは「あの先生は悪い」と共通の敵として認識する。子どもたちは授業中のみならず学校生活全般において、先生の言動を監視している。この監視は、SNSの普及によって、24時間体制となった。監視者である子どもたちは、学校外でも教師の不正を見かければ、即LINEグループで共有する。

 教師としては、子ども集団との関係が悪くなると、学級運営が困難になる。また、厳しく叱るべき子どもの親はセンシティブな保護者が多いため、教師は叱ることができない。教師は子ども集団の期待や要求に応えようとするあまり、次第に反応が過剰になる。それが、例えば教師も加担した「葬式ごっこ」として形に表れる。これは、子どもたちの「スクールカースト」に、教師も知らず知らずに組み込まれてしまっていることに他ならない。教師が子どもたちに支配されてしまっているのだ。スクールカーストが発生するのは、子ども間や、子どもと教師間に限らない。教師間でも生まれる。「職員室カースト」は、時に神戸市東須磨小の教員間いじめ・暴行事件などの形で表面化することもある。

 さて、本書はウィズコロナ、アフターコロナ時代に求められる教師像をいくつか示している。そのひとつが、子どもたちに「空気を読みすぎない行動モデル」を示すことができる教師だ。同調圧力がある環境は、「みんな一緒」という安心感が得やすいが、同時に、すこしでも違ったことをすれば排除されるかもしれないという怯えも抱いている。今の若手教師たちは、SNSがある環境で育った“空気が読める”世代だ。だからこそ、教師自身があえて時には空気を読まず、「私はこうしたい」「みんなにこうしてほしい」と自分の気持ちをストレートに子どもたちにぶつけることで、子どもの中に「自分らしく振る舞っていいんだ」という解放感が芽生える、という。

 著者は、強い使命感と情熱をもっている教師は変わらず一定数はいる、と述べる。教師は人生を捧げるに値する仕事だ。本書でいい教師の条件と同時に、その意義にもあらためて触れてもらいたい。

文=ルートつつみ(https://twitter.com/root223