『めぞん一刻』『美味しんぼ』『YAWARA!』etc──名作を生み出し続けた「ビッグコミックスピリッツ」40年の歩み

マンガ

公開日:2020/12/22

言いにくいことはっきり言うにゃん
『漫画家本SPECIAL スピリッツ本』(小学館)

 日本ほど「漫画」という文化が根付いている国は、世界でも稀であろう。週刊、月刊、不定期刊と多くの漫画雑誌が発行され、我々はあたりまえのようにそれを手に取る。もちろんここに至るまでには、数多の雑誌が生まれては消えていった。そんな中でも時代の荒波を乗り越えて生き残ってきた雑誌は当然、存在する。1980年に誕生し、創刊40周年を迎えた「ビッグコミックスピリッツ」も、そんな雑誌のひとつだ。『漫画家本SPECIAL スピリッツ本』(小学館)は、雑誌を語る上で欠かせない人物たちのインタビューや全掲載作品の一覧など、40年の歩みを凝縮したまさに珠玉の一冊である。

 現在の「スピリッツ」は週刊誌だが、実は創刊当時は月刊だった。創刊時の編集長である白井勝也氏は、もともと「週刊少年サンデー」編集部に在籍。そこで『漂流教室』の楳図かずお氏や『男組』の池上遼一氏といった著名作家を担当する。後に「ビッグコミック」編集部へ異動することになるが、そのときに「サンデー」から「ビッグコミック」の間にもう一誌……という考えを持ったという。ただ立ち上げるにしてもスタッフがいないため、大きなことはできない。だから月刊からの出発となったが、志としては「ビッグコミックオリジナル」に続く「第三のビッグ」だったのである。

 そういう経緯で誕生した「スピリッツ」ではあったが、白井氏いわく「月刊時代の7~8号を見ていて、やっぱり限界というのか、見るも無残な部数になっていて」という状況だったという。その打開策として「月2回刊」に移行。ここから「そこそこ動き出した」という流れになり、1986年には現在の週刊という形へ至るのである。以降、「スピリッツ」は多くのヒット作を輩出しながら、メジャーなヤング向け漫画誌としての地位を確立していったのだ。ではどのようなヒット作があったのか、代表的なものを紹介してみよう。

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『めぞん一刻』

 日本でもトップクラスの知名度を誇る漫画家・高橋留美子氏の代表作のひとつ。『めぞん一刻』は「スピリッツ」創刊から連載された作品であり、雑誌の人気を牽引した看板でもあった。実は高橋氏はこのとき「週刊少年サンデー」で『うる星やつら』という作品を連載しており、それでも「月刊誌なら」と連載を引き受けたという。しかし前述のように雑誌は隔週刊、そして週刊へと移行。氏はさすがに「聞いてない!」と編集部とモメて、9週目以降は隔週ペースになったのだとか。ちなみに『うる星』も『めぞん』も1987年に連載を終えており、ほぼ最後まで2作品連載を続けていたのだからスゴイのひとことである。

『YAWARA!』

 『MONSTER』や『20世紀少年』などの傑作を生み出した漫画家・浦沢直樹氏の出世作ともいえる作品。『YAWARA!』は実写映画やアニメにもなり、著名柔道家の愛称の元ネタといわれるほど人気を博した。「スピリッツ」では本作がスタートしてからしばらくして、看板作品であった『めぞん一刻』が終了。編集部からはポスト『めぞん』を期待されていたという。実は当時の女子柔道はオリンピックの正式種目でもないマイナー競技だったが、浦沢氏は「もしこれを描いたら大ヒットしちゃうな」と思ったとか。その言葉通り漫画は大ヒットし、連載開始から6年後には女子柔道がオリンピックの正式種目になるのだから、氏の慧眼には恐れ入るばかりだ。

 上記2作品のほかにも『美味しんぼ』や『東京ラブストーリー』など、名作として歴史に刻まれる作品群が40年の歩みの中で誌面を飾ってきた。長い歴史を持つ雑誌は、読者が初めて読む年代によって代表作が変わってくるもの。そして今も、読者の記憶に残る名作が次々と描かれているのだ。さて、あなたの思い出の作品は──?

文=木谷誠