死んだはずの恩師から「私を殺した犯人を暴け」との手紙が…廃屋に監禁された高校生ら6人の運命は

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/25

監獄に生きる君たちへ
『監獄に生きる君たちへ(メディアワークス文庫)』(松村涼哉/KADOKAWA)

 虐待が原因で子どもが亡くなったというニュースを見聞きするたびに、「どうして防げなかったのだろう」という思いが募る。児童相談所の対応はどうなっているのか。そんなことを一度でも考えたことがある人は、廃屋に閉じ込められた6人の高校生たちをめぐるノンストップミステリー『監獄に生きる君たちへ』(松村涼哉/メディアワークス文庫/KADOKAWA)に心動かされることだろう。

 著者・松村涼哉氏は、スクールカーストを題材とした『ただ、それだけでよかったんです』や少年法のありかたを問うた『15歳のテロリスト』などが大重版されている人気作家。閉塞した社会の闇と、そこに生きる少年少女たちの葛藤を描きだした内容は、年齢を問わず、多くの読者に強い衝撃を与えている。最新作である本作で描かれるのは、児童虐待と、児童相談所の実態。ミステリー作品として手に汗握る展開が続くのはもちろんのこと、現代社会の闇、子どもをめぐる問題にも自然と興味が湧いてくる。

 舞台は、かつてはフリースクールとして使われていた廃屋。そこに高校生ら男女6人が閉じ込められてしまった。彼らのもとには、死んだはずの恩人・真鶴茜から手紙が届いていた。【アナタの秘密を知っています。施設を訪れ、7年前の潔白を証明してください】…。その手紙を頼りにこの場所を訪れた結果、彼らは監禁されてしまったのだ。ここにあるのは、わずかな食糧と、茜を差出人とした【私を殺した犯人を暴け】という置き手紙だけ。7年前、彼らは、児童相談所職員であり児童福祉司だった茜に一泊二日の旅行に誘われ、この場所を訪れていたのだ。楽しい旅行になるはずだったのに、花火の夜、茜は不審な死を遂げた。あの夜、一体何があったのか。話し合って、犯人を見つけ出さねば、ここから脱出できないらしい。恐怖に苛まれる中、高校生たちは、自らの過去や、茜が死んだ夜についての証言を重ねていくことになる。

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 父親から暴力をふるわれていた古谷桜介。喧嘩ばかりする非行少年だった福永律。万引き常習犯だった手塚佳音。母親が精神の調子を崩していた武井周吾。両親の喧嘩が絶えなかった越智藍理。児童相談所職員として、彼らのような子どもたちのために懸命に働く茜のことを誇りに思っていた妹・真鶴美弥…。誰が何の目的でこの6人を集めたのだろうか。

 彼らの証言の中でもっとも心に残ったのは、妹・美弥が語った、茜の姿だった。児童相談所は想像以上の激務。例えば、虐待相談件数は、平成10年から平成30年の間で、約7000件から約16万件、20倍以上にも膨れ上がっているのだという。そんな世間の注目の高まりに現場はついていけているのだろうか。どんなに忙しくても子どもたちのために懸命に働き続けていた茜。時に、精神的に不安定になることがあっても、子どもを救いたいという強い信念をもって働いていたという彼女の身に一体何があったのか。

 見え隠れする嘘と秘密。証言が重ねられるたびに、どんどん容疑者が変わっていく。廃屋に囚われた少年少女たちは、一体どんな真実にたどり着くのだろう。読めば読むほど、現代社会の闇に、子どもたちの葛藤に気づかされていくこの作品は、あなたの心にも強く突き刺さるに違いない。

文=アサトーミナミ

『監獄に生きる君たちへ』作品ページ