「この人なら私をシンデレラにしてくれる」誰もが羨むハッピーエンドの先にあったのは背筋が凍る転落劇だった……

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/27

哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ
『哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ』(秋吉理香子/双葉社)

 継母や義理の姉たちに虐げられながらも、幸せになれると信じ、素敵な王子様との結婚を掴んだシンデレラの逆転劇はいつの時代でも女性の心をくすぐる。めでたしめでたしで終わるハッピーエンドの余韻に浸り、自分にもいつか運命の出会いがあるのでは……と胸を弾ませた人はきっと多いだろう。

 だが、大人になって結婚はゴールではなくスタートだと知ると、こんな疑問が浮かんでくる。果たしてシンデレラはその後、幸せになれたのだろうか――。

 その視点から誕生したのが、2021年2月に公開予定のサスペンス映画『哀愁しんでれら』。この映画は衝撃のラストが用意されているオリジナルストーリーだ。

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 そんな注目作を原案に、秋吉理香子氏が新たに生み出した『哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ』(双葉社)には映画とはまた違う「もう一人のシンデレラ」が描かれている。

絶望の中で出会った男性は本当に王子様――?

 市役所の児童福祉課に勤める福浦咲良は、親友に出産祝いを持っていったことで自分の人生に歯がゆさを覚え始めた。

 小中高と遊び惚け、大学時代には毎週合コン三昧だったのに、手堅い夫を掴み、子どもまでもうけて、幸せに包まれている親友。かたや、自分は母に捨てられて以来、ずっと努力してきたのに未だ独身。おまけに毎日、祖父や父、妹のためにひとりで家事をこなしている。

 誰かこの生活から、私を救って――。そう願うも、予期せぬ不運に見舞われ、咲良はさらに絶望的な状況に。

 そんな時に出会ったのが、開業医の泉澤孝太。孝太は半年前に妻を交通事故で亡くし、娘のカオリを男手ひとつで育てていた。孝太と出会ってから、咲良の人生は一気に好転。優しくて責任感が強く、経済力も申し分ない彼はまるで王子様のよう。

 この人がいれば私は、シンデレラになれる。ときめきと共にそんな打算的な思いも抱いていた恋愛はとんとん拍子に進み、2人は出会って間もなく結婚。カオリも咲良が母親になることを喜んでくれた。

 それから2人は、いつまでもいつもまでも幸せに暮らしました……といかないのが、本作の面白さ。誰もが羨むハッピーエンドの後に待ち受けていたのは、狂気の日常。咲良、孝太、カオリのそれぞれの視点から語られる新生活は幸せからかけ離れたもの。「想像していたハッピーエンドの先」とはあまりにも違いすぎる毎日に、咲良は恐怖を抱く。

“ああ、わたし。もしかしたら大変な人と結婚しちゃったのかもしれない――”

 なんて悲劇的なシンデレラ……。そんな目で咲良の行く末を見守っていくと、読者は背筋が凍るラストに直面し、幸せの意味を考えたくなる。

「幸せ」と「自己満足」。その2つは似ているようで、全く違う。幸せにはこれといった定義がないからこそ、私たちは自身が求めている幸せが“自分だけの幸せ”になっていないかと時折、振り返らなくてはいけないのかもしれない。

 子どもには決して見せられない、裏おとぎ話。大人のあなたの胸には、どう響くだろうか。

文=古川諭香