「不眠症」によってつながる、ふたりの男女。同じ悩みを共有するふたりの恋模様は?

マンガ

公開日:2021/1/1

君は放課後インソムニア
『君は放課後インソムニア』(オジロマコト/小学館)

 眠れない夜、あなたはどう過ごすだろうか。眠れるまで目をつむり続ける人もいれば、気分転換にスマホでネットサーフィンに走る人もいるだろう。過ごし方は人それぞれだ。

 でも、そんな過ごし方ができるのは「今夜くらい眠れなくても平気」といった思いが根底にあるからではないだろうか。もしそれが毎日続くとしたら……僕は同じように思える気がしない。きっと孤独や退屈を感じてしまう。

 ただ『君は放課後インソムニア』(オジロマコト/小学館)は、そんな孤独で退屈な夜を甘酸っぱい恋心で満たしてくれる漫画だ。読んでいくうちに「夜、眠れないのも悪くないな」と感じさせてくれる。

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 物語の主人公の1人・中見丸太は、不眠症に悩む高校1年生だ。4人に1人は何らかの睡眠障害を抱えているといわれる現代日本では、そこまで珍しくないことなのかもしれないが、育ち盛りで多感な時期の彼にとって「眠れない夜」は苦痛なのだ。

 文化祭準備の日。用事を頼まれて天文台のある部屋に足を運んだ丸太は、そこが音のない静かな場所であることに気付く。それもそのはず、ここは元天文部の女子生徒の幽霊が出るという噂があり、誰も近づこうとしないのだ。ただその噂は、学校で眠れる場所を探していた丸太にとっては好都合。居心地の良さしか感じられなかった。

「学校にいる間はここを自分だけの空間にしよう」。そう思い、横倒しになった掃除ロッカーをベッドに眠ろうとする丸太。しかし、すでに先客がいることに気付く! クラスメートの曲伊咲だ……! なぜここに彼女がいるのか。伊咲に問う丸太だったが、話を聞くうちに自分と同じ不眠症に悩まされており、ここで寝ていたことを知るのだった。

 本作のもう1人の主人公、曲伊咲はポジティブな性格だ。丸太と眠れない夜の過ごし方について語るシーンでは「退屈な夜を過ごしてもどうせ同じ朝がくるなら、2人で面白くしよう」と言い出し、知り合ったばかりの丸太を夜中のデートに誘うほどである。また、彼女は言葉も常にド直球。初めて2人で話した日から天文台のある部屋に顔を出さない丸太に、伊咲はこう告げる。

「中見がいないとさ。眠れないから」

 伊咲のこの言葉はもはや告白に近い。ここまでストレートに伝えられたら、誰でもそう思うだろう。しかし丸太も手ごわい。筋金入りのネガティブで偏屈な性格なのだ。もちろん、伊咲の言動にはドキッとするし「伊咲がいると学校に行きたくなる」と思いを馳せる。しかし、丸太の口から彼女に何かを伝えることはしないのだ。

 でも、実はそんなドギマギ具合が高校生の恋愛なのかもしれない。

 1巻ではもう1つ、大きな出来事が起こる。丸太と伊咲が天文台のある部屋を密かに使っていることが保健室の先生・倉敷にバレてしまうのだ。「どうか見逃してほしい」とお願いする丸太と伊咲。ただ、倉敷も教員である以上報告しないわけにはいかない。

 すると、丸太は思いがけない言葉を口にする。

「俺が天文部の部員になればここにいられますか」

 現状、天文部は廃止されている。つまりこれは「天文部再発足」を意味するのだ。もちろん丸太に天文の知識はない……。すべてはあの場所を守るためだった。

 こうして天文部を再発足し居場所を守った丸太と伊咲。しかし顧問となった倉敷からは「部として認められるには、年間を通して活動実績がないと難しい」と告げられる。2人は手探りながらも、天文部として活動していくのだった。

 本作では、2人の恋の行方と同時に天文部としての活動もみどころである。

 本作のテーマは「不眠症」である。上述したように、不眠症をはじめとした睡眠障害は、誰でもなり得る可能性があり決して珍しいものではない。また、これらはまったく改善されない障害でもないのだ。

 丸太と伊咲も今は不眠症に悩まされているかもしれないが、どちらかが改善する可能性も十分にあるだろう。ただ、2人を繋げているのは良くも悪くも「不眠症」だ。だからこそ特別な時間を2人で過ごせた節さえある。

 丸太と伊咲、どちらかの不眠症が改善したらどうなるのだろう……。考えすぎかもしれないが、お互いに不安や孤独を抱えてしまうことだってあるかもしれない。

「改善されるならどうか、2人同時に……」そう願わずにはいられない。

 本作は、現在5巻まで刊行中だ。丸太と伊咲の恋模様はもちろん、1巻で再発足した天文部の活動も佳境を迎えている。

 改めて問う。眠れない夜、あなたはどう過ごすのだろうか? もし答えが出ないのであれば、ぜひ本作を手にし、丸太と伊咲が作り出す特別な時間に浸ってみてはどうだろうか。

文=トヤカン