仮釈放となった人たちは、保護司とともに更生への道を歩み始める。しかし彼らを待ち受けている現実は?

マンガ

公開日:2021/1/2

前科者
『前科者』(香川まさひと:原作、月島冬二:作画/小学館)

 あなたは「保護司」の存在を知っているだろうか? 保護司とは、犯罪者や非行のある少年の更生を助ける国家公務員のことである。刑事ドラマなどで「保護観察」「仮釈放」という言葉を耳にするが、彼らはそれらを円滑に進めつつ、保護観察官と協働し出所した人たちの手助けをするのだ。

 そんな「保護司」と仮釈放された人たちとの関わりを描いた漫画が『前科者』(香川まさひと:原作、月島冬二:作画/小学館)だ。犯罪をテーマにした作品は数あれど、罪を償った後の世界を中心に描いた作品は多くないだろう。

■前科者の石川に待ち受けていたのは「前科者」としての厳しい現実

 舞台は、湘南の海が近くに広がる小さな町。主人公の阿川佳代は、そこで新聞配達員とコンビニの店員の仕事を掛け持ちしながら保護司として活動している。

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 そんなある日、佳代のもとに刑務所から出所した石川二郎という男がやってくる。彼は5年前、婚約寸前の恋人を兄に寝取られ憤慨し、兄を殺害してしまったのだ。言い渡された刑期は6年。そして5年半の刑務所内での真面目な態度が評価され、仮釈放となったのだ。

 ただ、仮釈放といっても刑期が早まったわけではない。満期になるまではトラブルを起こさずに生活しなければいけないのだ。もしトラブルを起こせば、仮釈放はすぐに取り消され刑務所に逆戻り。場合によっては刑期が延びることもあるのだ。石川もそれを肝に銘じており、一からやり直そうと努力し始める。

 しかし、現実は残酷だ。石川を待ち受けていたのは、町の住人たちからの誹謗中傷、冷やかしだった。現に彼は刑務所から出て間もなく、町民から根も葉もない噂を聞かされたり、誹謗中傷を浴びたりする。次第に彼は情緒不安定になっていく。

 これが仮釈放された人たち、いわゆる「前科者」の運命なのだろうか……。確かに石川は殺害という罪を犯した。そしてこれからもこの罪が消えることはない。ただ、彼は命じられた刑期を真摯に受け止め、罪を償ってきたのだ。そしてこれからは粛々とやり直そうとしている。にもかかわらず、その町の人間がそれを阻むのは、あまりにも不憫だ。本作を読了し作中の石川の振り回され具合を思い返すと、とても切ない気持ちになる。

 石川は、無事に仮釈放期間を終えることができるのだろうか。詳細はぜひ本書を手にして確認していただきたい。

■佳代が保護司を続ける理由

 実は、保護司に報酬は一切ない。あくまでその人の奉仕精神のみで行う、ボランティアだ。

 そのため佳代は、保護司としての活動費を掛け持ちの仕事で得た給与から捻出している。ただ、彼女には奨学金の返済、会社員時代に過労で入院した時の医療費の返済が残っており、とてもじゃないが無給の保護司を続けるほど余裕はない。

 コンビニの店長にも「一銭にもならないきれいごとより、コンビニの仕事の方が借金返済に充てられて良いじゃないか」と諭される始末。ただ、佳代はこう告げるのだ。

「私だって本音はお金が欲しい。面倒くさい。自分勝手に生きたい。だけどそれじゃみじめすぎる。きれいごとが言える間は、きれいなその部分で人と接したい」

 この言葉の真意は、果たして何なのか。きっとそれが分かれば、彼女が保護司を続ける理由も明らかになるだろう。

 本作は、現在6巻まで刊行中だ。各巻で描かれる「前科者」と呼ばれる人たちは、現代日本にいてもおかしくないほどリアルだ。そんな彼らに対して真摯に、かつ必死に向き合う佳代の姿を、ぜひ一度見ていただきたい。

文=トヤカン