健康、お金、介護の備え……女がガチ一人で生きていくための武器とは!? 漫画家ならではのサバイバル術

マンガ

更新日:2021/2/1

孤独死しないためのおひとりさまサバイバル術
『孤独死しないためのおひとりさまサバイバル術』(高嶋あがさ/竹書房)

 家族と同居しているのに、自宅で死亡してもすぐに発見されない「同居の孤独死」が増えているそうだ。家族が認知症だったり、介護が必要な体だったりして、面倒を見ていた人が病気などで動けなくなり共倒れというケースもあるとのこと。少子高齢化の時代、もはや孤独死は「おひとりさま」だけの問題ではなくなったと云えるだろう。結婚を諦めたアラフォー女性漫画家が描く、この『孤独死しないためのおひとりさまサバイバル術』(高嶋あがさ/竹書房)は、そんな、孤独死はしたくない!という人にぜひ読んでもらいたいコミックエッセイである。

 ただし、本書はサバイバル術を教えてくれるハウトゥー本ではない。そもそも作者は、父親が海外赴任していたスイスで生まれ5歳のときに帰国し、大学を卒業して印刷会社に就職した頃には両親が別居。女友達とルームシェアしていたものの、30歳を過ぎてから漫画家デビューする時期に母親と同居するのだが挫折して、その後に父親と弟と暮らしている間に刊行した作品が『母を片づけたい~汚屋敷で育った私の自分育て直し~』(竹書房)といった具合で、なかなかに波乱ぎみ。その生い立ちからすると一般論を語るには適さないかもしれないからだ。

 とはいえ、作者が一人暮らしを再開し、新型コロナウイルス禍の中にあって描かれた本書には、見習うべき点があると私は確信したのだ。それは、専門家を頼る姿勢。たとえば、歯についてのこと。健康には直接関係しないが、作者は少し笑っただけでも歯茎が露出してしまい会社の上司から「歯茎を出して笑わない!」と注意されてしまう、いわゆる“ガミースマイル”のうえ、食いしばり等により顎の骨が異常に発達して歯茎に出っ張ってしまう“骨隆起”ゆえに歯磨きをしても歯ブラシが奥歯に届かない状態だった。そこで作者は、「とりあえず自分の状況を知るために」とクリニックを訪れるのだ。体調不良になっても、酷くなったら病院へ行こうと先延ばしして、ドラッグストアなどで自己判断のまま薬を選んでしまうような人も多いのではないだろうか。そんな覚えがある人には、ぜひ見習ってもらいたいところ。結果的に、保険適用外のため自費で20万円くらいかけての治療となったそうだけれど、健康には関係しなくても「無駄なコンプレックスが減りました」という成果は、現代のストレス社会においては重要なことだろう。

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 健康問題では婦人科系疾患の悩みが描かれていて、作者はそれを加齢により「毎年ミッションが増えていく」と語っている。運動不足で野放しの肥満も然りで、寝っ転がりながらスマホを使い「アラフォー」「ダイエット」のワードを頼りにネット検索している矛盾の果て、「アラフォーは運動しないとやせません」と要約するのは笑いどころ。

 それでもネットの情報のみに頼らず、健康に不安があれば病院に行って甲状腺やフェリチン値(鉄貯蔵値)の検査を受けたり、おりものに小指の先程の大きさの肉片(ポリープ)が混じっていているのを「またか…」と流さずに受診したりしているのが素晴らしい。まぁ、医師から「そのポリープ持ってきてますか?」と問われて、「トイレに流しちゃいました…」というのは致し方ないところ。悪性腫瘍かどうかを病理検査に回してもらったほうが良いということだが、なかなか保管することに頭が回る人はいまい。そういう意味でも、作者の体験談は参考になる。

 この作者の慎重さは、ご本人の言う“毒親”に育てられたからだろうか。本書では母親とのエピソードは少ないものの、父親から100万円以上の借金を頼まれて貸したら、当然のごとく返ってこない、というなかなかのクソエピソードが紛れ込んでいて、これは確かに自衛しないと生きていけないと思われる。その父親絡みの話の中には、一人暮らしを再開するさいの住居探しがあるのだが、かつて不動産屋のバイトをしていたという作者は怪しい会社と物件を見抜く。ただし、ようやく見つけた条件の合う部屋に引っ越してみると、経年劣化で給湯器が使えなかったりトイレが水漏れしたりと、困ったことはあった模様。そう、慎重に事に当たってもトラブルは起こるときには起こるんである。

 だからこそ、今や誰もがSNSなどで情報を発信するのが容易なことを考えれば、専門家に話を聞くというのは自己満足や承認欲求のためでも、やってみて損はあるまい。むしろ、ネットで検索するだけで情報を鵜呑みにし、個人の感想を頼りにしてしまうことのほうが怖い。本書の作者などは、あるとき「毒親を持つ子供の視点からの介護」について取材を受けたのをきっかけに、自身でも家族絡みみの死について勉強したり考えたりするようになったそうで、さらにこうしてまた一冊の本を世に出した。それは決して、楽なことではない。

 まだまだ家に篭もることを強いられ心が弱りそうになるが、一番身につけるべきサバイバル術は行動力だと思い知らされた。ただし、手洗いとマスクを忘れずに。

文=清水銀嶺